アンプラグド・イン・ニューヨーク
MTV Unplugged in New York
1994
Nirvana

 芸能界で最も多い病気は鬱病である。才能と人気など、あらゆる思いが重なると、芸能人は鬱症状を起こし、ついには自決することだってある。ニルヴァーナのヴォーカリスト、カート・コバーンはまさにそれだったのではないだろうか。70年代、多くのロック・ミュージシャンがオーバードラッグで死んでいったが、カート・コバーンの死は先代の死んでいった英雄たちにも通じている。このアルバムは、おそらくカート・コバーンのもっとも生々しい1枚になることだろう。

 エリック・クラプトンがきっかけで一躍MTVの人気番組となった「アンプラグド」。その企画CDの中では、僕にとってはホワイトスネイクと共に、最も衝撃が高かったのがニルヴァーナである。てっきりオルタナティヴ音楽の特色といえば、ざらついたエレキ・ギターのサウンドだと思っていただけに、このアルバムのまったく歪みのないギター・サウンドにはビビった。ほとんどカート・コバーンはフォーク・シンガーの弾き語りに近い形で演奏を披露。オーバーダビングなしのシンプルなバンド編成でありながら、やはりそこにはカート・コバーンらしい異様な空気感が醸し出されている。すごく真面目で一途なロック音楽であることがわかる。つまりはカートの歌声そのものに不思議な力があったということだろうが、とにかく「ネヴァーマインド」ではまだわからなかった、生のカートの存在感に背筋ぞくぞくである。とくに最後の曲「Where Did You Sleep Last Night」のカートの凄まじい叫びはジョン・レノンのそれを思い出させる。よりロックの本質をついた名盤といえる。

バンド・アルバム・インデックス
Bleach
In Utero
Incesticide
Nevermind