セイル・アウェイ
Sail Away
1972
Randy Newman

「ランディ・ニューマンに駄作なし」と色々な評論家が言っていたけれど、本当にそう。彼の作品がすぐれているのは、そのアメリカらしさ。といってもフォーク・ソングではない。それはハリウッドの映画のワン・シーンのごときサウンドである。歌詞の内容とメロディの雰囲気は異質のものであるが、それが不思議と一体化していることに感動を覚える。名映画音楽作曲家アルフレッド・ニューマンの甥っ子でもある彼は、「トイ・ストーリー」など、映画音楽も多数手がけ、アカデミー協会からの人気も高く、まさに音楽で聴かせる物語作家といったところ。歌詞の辛辣さときたら、業界随一ではないか。シンガー・ソングライターの中でも、最もロック然とした才能を持つ偉大なるミュージシャンで、かのトム・ウェイツやジェームズ・テイラーもかすんで見えてしまうほど。
 ニューマンの歌声はいつも決まって単調で下手クソなところに味がある。ストリングスやホーンセクションをバックに入れるその盛り上げ方は、アメリカの日常風景を想像させ、そこにはどことなく男の哀愁も漂う。ピアノの弾き語りナンバー「God's Song」は、神がなぜ人間を愛したかを、神自身に独白させる形を選んだ。ニューマンの曲はとにかく歌詞主体の音楽であることは確かであるが、たとえ歌詞の意味を知らずとも、曲の調子だけで何らかの情景を浮かばせ、聴き手をぐっと感動させる。おそらくムード作りがうまい作曲家なのだろう。僕はアル・クーパーにもニューマンに通じるものを感じるが、ただしニューマンにはクーパーにない親近感がある。

 これは、ロックとは激しい音楽だと勘違いしている人たちに、ぜひとも聴いて欲しい一枚だ。エアロスミスがロックで、ニューマンがロックじゃないのか? 本当のロックの心はこの1枚が教えてくれる。