これがロックのカッコイズム。まず出だしのリズムにビビビっと来る。どの曲も演奏がかなり決まっている。「The
Fixer」については、ギター、ベース、ドラムそれぞれが様式的であり、最良の音を発している。
ハンブル・パイは、もとスモール・フェイセズのスティーヴ・マリオットを中心とするグループで、マリオットの黒っぽいヴォーカルが売りであった。以前はピーター・フランプトンがギターを弾いていたのだが、この作品からデイヴ・クレムソンに変わっている。ピーターは人気者であるが、どうもハンブル・パイの音とかみ合わないところがあった。ハンブル・パイはピーターが抜けたことで統一したと捉えても思い違いではあるまい。クレムのギターはジミヘンにも通じるものがある。
僕はこれを聴くとどうしてもフリーを思い出してしまうのだが、マリオットのヴォーカルはポール・ロジャースよりも気迫があり、メタル・バンドのヴォーカリストにも少なからず影響を与えているはずだ。
しかし、もろにブリティッシュ・ハード・ロックの匂いをかがせるアルバムである。僕はこれを聴いた瞬間から、これはきっと71年から73年に作られたアルバムだろうと直感したが、予想通り72年の作品だった。
僕が音楽を好きになったのは1997年だが、97年から何十年もの音楽を一気に聴いたため、時代ごとの音楽傾向というものが3年単位でわかるようになってきたのである。このアルバムは、ギターの歪み具合といい、ドラムの湿り気といい、まさに72年の音楽傾向が如実に表れている。悪く言えばオリジナリティに欠けるということになるが、これはいわばロックの形式主義的な作品であるため、70年代のハード・ロックの音を好む人にとってはよだれが出る理想的な1枚といえる。不思議と今聴いても古さを感じさせないということは、70年代の音楽的傾向は現在でも通用することを意味する。 |