エアリアル
Aerial
2005
Kate Bush

 ケイト・ブッシュの存在をすっかり忘れていた。そりゃ「天使と小悪魔」は僕の愛聴盤だけど、彼女はもう昔の人だと思っていた。で、レコード屋に行ってみたら、12年ぶり8枚目のニュー・アルバム発売とデカデカと書いてあって、サウンドトラックの波形がそのまま水平線上の岩にみえてくるジャケットが綺麗だったので、試聴して衝動買いしてしまう。以前「ドリーミング」を聴いたときは正直ひいたものだが、ケイト・ブッシュの声は基本的に今も昔も大好きである。女性シンガーとしてはかなり僕のごひいきである。セクシーなのに可愛げがある女性を表現するとき「小悪魔」という言葉があるが、この大変便利な言葉はいったい誰が考えたのだろうか?と思うが、音楽界でこの言葉がもっともしっくりくる人はケイト・ブッシュであろう。
 12年は長かった。その間に子供を出産しているそうだが、いきなり2枚分もいっきに放出してしまうほど作曲意欲が湧いてきたということだろう。しかもタイトルは「空気」。CD二枚を「海盤」と「空盤」にわけている。聴いてみてこりゃ納得である。
 これがとても聴きやすい。声は27年前と変わらない美しさ。ピアノの演奏にもあいかわらず繊細な心を感じさせる。ただただ繊細。一曲一曲の美しさにため息。打ち込みであろうか、ビートがきいており、「建築家の夢」などは正確すぎるリフの繰り返しに吸い込まれていきそうな感じ。この陶酔感とドキドキは、ロジャー・ウォーターズの「死滅遊戯」を聴いたときと似たような印象を受けた。
 ケイト・ブッシュの音楽は一種の詩だということがわかる。これは音楽全般に言えることだが、とくにケイト・ブッシュの音楽は詩らしいムードに満ちている。彼女の歌は歌詞も素晴らしい。今回驚いたのは「円周率」という歌。円周率を計算することに夢中になった男の話。円周率のあの長い長い数字をそのまま歌詞にしている。オルタナティヴ色の強い「透明人間になる方法」の歌詞も良い。
 無限に広がる幻想的な世界の中をさまようかのような、ある意味不気味ともいえる印象がある。中でも最後の曲はすごすぎ。延々と続く笑い声にはなにかじんと来るものがあった。

バンド・アルバム・インデックス
Dreaming, The
Hounds Of Love
Kick Inside, The
Lionheart
Never For Ever
Red Shoes, The
Sensual World, The