ヘンリー八世の六人の妻
The Six Wives Of Henry VIII
1973
Rick Wakeman

 イエスのメンバーで、ソロとして最初の大きな成功を掴んだのは、リック・ウェイクマンだった。発表時点ではリックはまだイエスに在籍していたのだが、この後に脱退した。プログレッシヴ・ロックのエッセンスが凝縮された本作は、イエス・メンバーのソロ作品の中でも突出した一枚である。
 ヘンリー八世の6人の妻を1人ずつ曲で表現するコンセプト・アルバム。このアイデアからして面白い。曲はすべてキーボード・インストゥルメンタルである。彼と並び称されるシンセサイザー奏者のキース・エマーソンほどのアグレッシブさはないが、リックならではのクラシック趣味が高じた英国王朝風の優雅な内容になっている。ピアノからシンセサイザー、パイプオルガンその他キーボード楽器もろもろがこれでもかと駆使され、彼の指先から奏でられるメロディは実に多彩にロックしまくっている。ところどころに飛び出すメロディのインパクトが凄い。「Jane Seymour」でのスリリングなギュイーーーーンの音には思わず鳥肌が立つ。イエスのライブ・アルバム「イエスソングス」では、リックがたった一人で、このアルバムのハイライトを一度に演奏して、一世一代の大芝居に成功している。これを聴くと、まさに彼が「魔術師」といわれるだけのことはあるもんだと納得させられる。
 ちなみに、1曲目の「Catherine Of Aragon」ではクリス、スティーヴ、ビルが参加しており、実質イエスの新曲といっても良い出来栄えだ。