イエス
イエス

 イエスの歴史は長い。よくここまで続いているものだと思う。アルバム本数はかなり多いが、僕はファーストアルバムから『Magnification』まで苦労して全て揃えた。音楽スタイルは60年代70年代80年代90年代00年代と、時代の流行に併せて確実に変化してきているが、どれも満足のいく出来栄えである。コンスタントに傑作を発表し、決して懐メロ・バンドとならず、必ず新作で勝負する。これは凄いことだ。
 ユーライア・ヒープやキング・クリムゾンほどではないが、イエスはご存じのようにメンバー変更が激しい。同じメンバーが出たり入ったりを繰り返している。僕はイエスの最大の魅力は、メンバー同士の確執、エゴ、誰が音楽的主導権を握るかというイニシアチブ奪還争いだと思っている。それが見事な楽器バトルへと昇華しているのだから、これほど素晴らしいことはない。よくキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマーと比較されるプログレッシヴ・ロック・バンドの重鎮であるが、テクニカルな楽器バトルという意味では、僕はむしろディープ・パープルと比較すべきだと思う。イエスの曲はどれもこれも、5人各自が個人主義のために作曲したものだった。常に全員が主役でなければならなかった。それゆえ、イエスは例外のアルバムを除けば、ヴォーカル・ギター・ベース・キーボード・ドラムの5人編成がお約束になっており、それぞれの楽器から発されるサウンドが作品の聴き所になっている。
 僕がイエスでイチオシしているアルバムはライヴ盤の『Yessongs』(このアルバムからドラムのアラン・ホワイトが参加し黄金メンバーが完成)であるが、これぞ楽器バトルの真骨頂といえないか。本当のロックというものは、スタジオ収録盤よりもライヴの方がはるかに面白いことがわかる。実にイエスはその収入源の大半がライブによるものだった。彼らはライブを続けていくためになんとかしてアルバムを作らなければならなかった。アルバムはライブのための動機でしかなかったというわけだから、彼らが徹底したライブ・バンドだったこともわかる。
 ライブにおいて、彼らの何が最も優れていたのかというと、一切セッション・ミュージシャンを加えることなく、すべて5人だけの手で演奏していたことであろう。あの複雑な音がたった5人だけで奏でられたものだとは、ただただ驚異としか言えまい。


 イエスは数多くの映像作品を残しており、メンバーの演奏する姿が確認できるが、スティーヴ・ハウ(リードギター)やリック・ウェイクマン(キーボード)が演奏している様子など、魔術的でかなり引きつけられるものがある(ちなみに手持ちシンセサイザーや、円形ステージでのライブを広めたのもイエスである)。スティーヴのギター・ソロが出たかと思えば、今度はリックが負けじとキーボードのボリュームを上げて攻めてくる。
 クリス・スクワイアのベースもかなり目立っているが、イエスのベースはただ後ろで鳴っている類ではなく、高音域ベースゆえに時にはリードを取ることもある。「Starship Trooper」「Long Distance Runaround」「Siberian Khatru」「Ritual」「Don't Kill The Whale」「Tempus Fugit」「Owner Of A Lonely Heart」などのベースラインは絶品だと思う。後にイエスのプロデューサーとなるトレヴァー・ホーンはかつてイエスの大ファンだったが、何が彼の心を掴んだかというと、クリスのベース・プレイの素晴らしさだったという。
 僕もクリス・スクワイアはベース・プレイヤーとしては一番のお気に入りだし、無論イエスのメンバーの中でも彼のことが一番好きである。イエスを結成したのも彼だし、彼だけがメンバーで唯一イエスの全アルバムに関わっている。スティーヴ、リックのいずれかが音楽的主導権を握るべく、曲の中で常に自己主張している一方で、俺も頑張ってるんだぞと言わんばかりの表情で横でベースをかき鳴らしている健気な彼が好きである。またコーラスも得意で、彼とジョン・アンダーソン(リードヴォーカル)との息のあったハーモニーの魔力はサイモン&ガーファンクルのそれに匹敵する。一度メンバー全員が一斉にソロ・アルバムを出したことがあるが、その中でも一番良かったのはクリスだった。またドキュメンタリー『イエスイヤーズ』ではレコーディング中にクリスがみんなを仕切っている様子が映し出されている。イエスのメンバーのほぼ全員が例外なくクリスからの一本の電話をきっかけにバンドに加入していることからも、クリスがまさに<イエスの番人>であったことはあきらかであり、だからこそ僕はイエスの音楽性はクリス・スクワイアこそが握っていると確信している。イエスの顔ともいえるジョンがクビになって脱退した後の『Drama』でさえ音楽的にはかなり完成度が高いが、これもクリスのお陰ではないか。
 一時期イエス・メンバーがクリスとアランのたった二人だけになって壊滅寸前だったことがあるが(下グラフ82年ごろ)、そのときもクリスはイエスを存続させるために必死で活動を続けている。(余談だが、クリスとアランは次の手としてレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジとロバート・プラントを迎えていた)


 メンバー全員が音楽性が全く違っていたし、仕事中は全員が躁状態で、常にお金のことでケンカをしていたらしいのだが、それでもイエスというバンドがなくなったことはなかった。彼らは結成してから現在まで、決まって音楽よりもビジネスを優先していた。金を稼ぐためには絶えず新作を作っていかなければならなかった。誰がリーダーでもなかった。ついて行けるものだけがバンドに残ることができた。ついて行けなければそこでお払い箱だった。「イエスを抜けたメンバーはイエスの名をかたるべからず」という掟を内部で掲げていたくらいであったが、それでもイエスは35年以上続いている。
 イエスの歴史は非常に面白い。イエスについて言及するとき、忘れてならないのが「二つのイエス」である。イエスは音楽性の相違というよりも金銭的トラブルが原因で、何度もメンバー・チェンジを繰り返してきたが、ついに二つのバンドに分裂してしまったのだ。創設者クリス・スクワイアを中心とした本家イエスと、本家イエスを打ち砕くために結成されたジョン・アンダーソン中心の<ABWH>である。
 いきさつはこうだ。クリスとアランの二人だけになったイエスは、新たに若手のナイス・ガイ、トレヴァー・ラビンをリードギターに迎えて、創設時メンバーのトニー・ケイ(キーボード)を呼び戻しての新バンドとなった。当初は<シネマ>を名乗って活動を開始していたが、レコーディング中のアルバムの出来が良かったので、ジョンに歌わせた方が絶対に売れると確信したクリスは、土下座する気持ちでジョンを説得し、呼び戻した。こうして新生イエスが誕生。このときのアルバムが最高傑作と名高い『90125』である。トレヴァーのアイドル路線戦略と、不気味なプロモーション・ビデオが話題になり、通称<90125イエス>は全米で初めてナンバー1になった(90125イエスはイエスの歴史の中でも最も長く続いたラインナップとなる)。
 やがてジョンは、『Big Generator』の後、自分に主導権がないことに嫌気がさし、本家イエスを脱退する。ジョンにとっては二度目の脱退である。ヴォーカルを失った本家イエスは実質休止状態に陥ったが、トレヴァー・ラビンにジョンの代役を務めさせることでクリスはイエスのブランド名をなんとか死守するのだった。何はともあれ「イエス」として売っている以上は金になった。
 本家イエスを抜けたジョンは、元イエスのメンバーの中でもとりわけ人気が高かったスター・プレーヤーのスティーヴ、リックらを呼び集めて、自分なりのイエス像を復活させる。それが<ABWH>である。あきらかに本家イエスへの対抗バンドだった。当時はスティーヴもリックも本家イエスに恨みつらみがあったため、クリスとジョンは全面衝突状態となり、裁判沙汰にまで及んだ。両者ともサウンドは全く違っていたが、甲乙つけがたく、互いに譲れず、競いあっていた。メンバーたちはそれぞれクリス側を<イエス・ウエスト>、ジョン側を<イエス・イースト>として分けて呼んでいたが、どちらが本物でどちらが偽物というわけでもなく、両者まさしくイエスそのものであった。
 やがて、この二つのイエスは和解し、一つに統合。ヴォーカル1人、ベース1人、ギター2人、キーボード2人、ドラム2人の8人メンバーとなるのである。そのイエス・オールスターズで作ったアルバムが『Union』だ。壮観である。「ギャラが良かったから、昔のよしみでやった」とメンバーたちが語っているように、きっかけは金とはいえ、それにしてもまったくイエスは毎度予想もつかない荒仕事をやってくれる。
 現在までに、短い期間ながらも印象的な活躍をしたピーター・バンクス(ギター)、パトリック・モラーツ(キーボード)なども数えると、イエスに関わったメンバーは14人いるが、結局はいつもジョン・アンダーソン、クリス・スクワイア、スティーヴ・ハウ、リック・ウェイクマン、アラン・ホワイトの5人に落ち着いてしまうところが腐れ縁っぽくて憎めない。5人とも今は見た目ではかなり老けてしまったが、まだまだ音楽的には衰える兆しがなく、常にバリバリのロックを展開している。僕はむしろ今のイエスの方が70年代のイエスよりもうんとかっこよくなったと思っているくらいだ。クリスのベースはいつ聴いても惚れ惚れする。彼らが新曲を作り続ける限り、イエスはロックの魂の体現者としてありつづけるだろう。(これは2006年頃に書いた記事です)
→イエス・ソング・ランキング
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クリス・スクワイア(b)
ジョン・アンダーソン(vo)
スティーヴ・ハウ(g)
リック・ウェイクマン(key)
アラン・ホワイト(dr)



Yes (69)
Time And Word (70)
The Yes Album (71)
Fragile (71)
Close To The Edge (72)
Tales From Topographic Oceans (73)
Relayer (74)
Going For The One (77)
Tormato (78)
Drama (80)
90125 (83)
Big Generator (87)
Union (91)
Talk (94)
Open Your Eyes (97)
The Ladder (99)
Magnification (01)
Fly from Here (11)

【Live Album】
Yessongs (73)
Yesshows (80)
9012 Live The Solos (85)
Keys To Ascension (96)
Keys To Ascension 2 (97)
House Of Yes (00)
Live At Montreux 2003 (07)
Union Live (11)
In The Present: Live From Lyon (11)

【Compilation Album】
Yes BBC Sessions 1969-1970 (97)
The Word Is Live (05)



危機
Close To The Edge



これぞイエス究極のメンバー。英メロディメーカー誌ではベスト・ベーシスト、ベスト・ヴォーカリスト、ベスト・ギタリスト、ベスト・キーボーディスト、ベスト・バンドの5冠を達成。

→イエスのソロ合戦

イエス・メンバー偉人伝シリーズ
1.クリス・スクワイア(b)
2.ジョン・アンダーソン(vo)
3.スティーヴ・ハウ(g)
4.リック・ウェイクマン(key)
5.アラン・ホワイト(dr)
6.ピーター・バンクス(g)
7.トニー・ケイ(key)
8.ビル・ブラッフォード(dr)
9.パトリック・モラーツ(key)
10.トレヴァー・ホーン(vo)
11.ジェフ・ダウンズ(key)
12.トレヴァー・ラビン(g)
13.ビリー・シャーウッド(g)
14.イゴール・コロシェフ(key)
15.ベノワ・ディヴィッド(vo) 16.オリヴァー・ウェイクマン(key)


アルバム発表時のラインナップを基準に作成。