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Time Out Of Mind
1997
Bob Dylan
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この1枚では、初期のディランにも、80年代のディランにもなかった、まったく新しいディランの姿を見た。「昔のディランはよかった」というファンは多いが、年老いてからのディランも決して悪いものではなく、本作は初期作品に勝るとも劣らぬ出来だといってもいい。昔からディランは渋かったが、本作には何年も年輪を重ねた初老の侘びしさのようなものさえ感じた。かつての攻撃的なイメージが殺がれて、物静かに佇(たたず)んでいるイメージがある。演奏もおとなしいが、そのため個々の楽器の音がいい感じである。エレキ・ギター2本、オルガン、ベース、ドラムだけのシンプルな編成であるが、音量も落とされ、音数は少ない。とくにエレキ・ギターのムーディな音色は特筆ものである。ブルース・スプリングスティーンの「The
Ghost Of Tom Joad」にもこれと似た音を感じたが、ディランがこれに影響を受けたかどうかは定かではない。どの曲もいいが、不満があるのは「Make
You Feel My Love」。これだけピアノを主体にしているが、装飾がわざとらしく、浮きすぎている気がした。「Love
Sick」「Highlands」などは申し分ない名曲。ディラン流のブルースといった趣である。毎年タイプがまったく異なる音楽が話題になるグラミー賞の音楽センスには理解しがたいものがあるが、このアルバムはそんなグラミーにも気に入られて見事アルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得した。 |
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