オーストラリア出身のイギリス系ヘヴィメタ・バンドであるAC/DCは、「地獄のハイウェイ」が高く評価されて、バカ売れし、アメリカでプラチナ・ディスクを獲得した。ところが、その直後にヴォーカルのボン・スコットが酒を飲んでいてノドをつまらせ、死んでしまう。成功の後の悲劇。起死回生不可能か?という不満を吹き飛ばす、痛快アルバムが、この「バック・イン・ブラック」である。これはボン・スコットの弔いの歌としても話題性があったが、後任ブライアン・ジョンソンはボン・スコットの歌い方を完全にモノにしており、額に青筋たててそうなキンキン度はますますパワーアップ。曲の質感が変わることもなく、従来のノリを更に強調し、前作以上にヘヴィメタの様式的なアルバムとなった。
ロック音楽というのはレッド・ツェッペリンにしろディープ・パープルにしろ、複雑な曲構成のものが多いが、その中でも様式だけにこだわり、終始スタイルを変えることなく、ノリだけを追求したAC/DCは、まったく希有のバンドである。しかも彼らはそこに誇りと威厳を持ち、そのリフはロックの様式美に達している。ギター2本とベースとドラムさえあれば、他に何もいらないという頑ななスタイル。オーバーダビングの形跡もなく、リフを軸として、いたってシンプルに演奏している。注目して欲しいのは、マイペースにノリを刻みつづけるドラムの音。どこも飾らないシンプルな演奏にして、そのパワフルなビートの、なんたる人間くささとアイデンティティ。とにかくAC/DCからは演奏者たちの人間的な温もりを感じ取ることができる。
一般的に評価の高いジューダス・プリーストやブラック・サバスにしても、たいていどこかの方向へ逸れるものだが、AC/DCはまったく逸れることなく、とくにコマーシャリズムに走ったり、メッセージ性を強調するまでもなく、ひたすら純粋にヘヴィメタルの道をまっすぐばく進している。ある意味これもまたロックの神髄といえる。この神髄を体感するには、近所迷惑になるんじゃないかと思うくらい音量をあげ(このやりすぎなんじゃないか?という罪悪感がエクスタシーになっていく)、とにかく体全体でノルこと。
単純明快がゆえに、あらゆる階層に受けいられ、なんと1600万枚ものビッグ・セールスを記録! 80年代の幕開け時、世間はこういう音楽を欲していた。 |