ディープ・パープル
ディープ・パープル

 「Hush」は名曲である。ロックの真の醍醐味である「演奏」を重視したハード・ロックの名曲中の名曲で、ジョン・ロードのオルガンとリッチー・ブラックモアのギターが交錯する興奮、ロッド・エヴァンスのコーラスの美しさ。高まるグルーヴ感。そのイメージは鮮烈であった。音楽的にヴァニラ・ファッジのそれに近かったため、最初にアメリカで注目され、当時は英国産のヴァニラ・ファッジという不当な評価を受けてしまったが、その後の活躍は周知の通り。「In Rock」でそれまでのクラシカルな作風を凄まじい気迫のロック音楽まで昇華させ、ヘヴィ・メタルのスタイルを確立させた功績は大きいが、結局のところ、どんなにメンバーチェンジを重ねようが、デヴィッド・カヴァーデイルの疾走感溢れる「Burn」にしても、ついにジョン・ロードが抜けてしまった「Bananas」に至っても、ディープ・パープルの名において、彼らは一貫して「Hush」のスタイルを継承してきたように思える。

 メロディではなく、楽器そのものの織りなす音色を尊重し、繰り返されるフレーズの上に、メンバー各自のソロ・プレイをフィーチャーさせるのがその主な特徴で、ヴォーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラムの5編成はもはや彼らの鉄則。メンバー全員が揃ってこそのディープ・パープルであって、それぞれが平等の立場に立ち、第一に「演奏」を聴かせるためのバンドとして成立している。その最たる例はイアン・ギランを含む第二期メンバーによる布陣で、彼らの個性豊かなインプロヴィゼーションがたっぷりと堪能できる「Live In Japan」は、最後まで凄まじい気迫で一気に畳みかけ、最も理想的なロック器楽の表現法を体現したとして、高く評価されている。とりわけ、スタープレイヤーのリッチー・ブラックモアによる、カリスマを感じさせるギター・ソロは、数多くの信者を生む結果となった。

 ディープ・パープルのもうひとつの魅力は、多分にクラシック音楽を意識した作風にある。それはプログレとはまったく異質のもの。あくまでロックの中にクラシック本来の持ち味をそのまま導入したところに彼らの意地があり、クラシックとロックを混合させた時に生じる化学反応を大いに楽しませてくれる。ジョン・ロードが、そのほとんどのアイデアを考えているが、第一期の頃にはベートーヴェンやリヒャルト・シュトラウスをまるで自作ナンバーであるかのように我が物にしており、ハード・ロックとかヘヴィ・メタルとか騒ぐよりも、それ以前に彼らは最もクラシック音楽に近いロック・バンドであったことを認識すべきであろう。「Concerto for Group and Orchestra」ではロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラとの共演も実現しており、クラシックでもあり、かつハード・ロックでもある重厚な音楽構成には度肝を抜かれるばかりだ。

 過激な演奏をするバンドは、数知れないが、その中でも、ディープ・パープルだけが突出して異彩を放っていたのは、ロックやクラシックなど、ジャンルという枠組みに囚われず、あくまで音楽的飛躍を目指した演奏家集団だったからではないか。そうした意味では、ディープ・パープルはビートルズキング・クリムゾンに匹敵する変革者だったと言える。
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ベストフィルム「ハイウェイスター」(YouTube)

<東京公演ライブ・レポート>
 2006年5月22日月曜日。東京国際ホールで開かれたディープ・パープル・ライブに行ってきた。出演者はイアン・ギラン(vo)、ロジャー・グローヴァー(b)、スティーヴ・モーズ(g)、イアン・ペイス(dr)、ドン・エイリー(key)の5人。演奏曲目は、ほとんど『Machine Head』の中から選曲されていた。
 出だしは僕の好きな「Pictures Of Home」。暗闇の中、いきなりペイスのドラム・ソロが轟音を立て、ステージは幕を開ける。そのノリのまま一気に突っ走る。グローヴァーのベース・ソロのところで客席から大きな歓声が出た。僕は2階席だったが、東京国際ホールは2階席の方が1階席よりも見やすいので、遠くとも5人の生身の姿を目撃するには十分だった。
 今回のディープ・パープルのライブを見てわかったのは、彼らが誰よりもオーソドックスなハードロック・バンドだということだ。これほど飾らないシンプルな構成のコンサートは珍しいだろう。モーズが「アメージング・グレース」を弾いたり、エイリーが「スター・ウォーズ」を弾いたり、各自のアドリブに工夫はあったが、基本はひたすら演奏また演奏で、余計な舞台演出や仕掛けは何もなかった。
 僕は、このライブを通して、彼らの音楽をひと言で表現するなら、「ダサかっちょええ」だと思った。客席が一番盛り上がったのは「Highway Star」だったが、この曲でグローヴァーとモーズが一緒にクビをふるところは、なんともダサいんだけど、かっこよくて、楽しくて、見ているとがぜんゴキゲンになる。2階席の観客はそれまでずっと座って見ていたが、「Highway Star」で僕が我慢できずに立ち上がると、隣の人もその隣の人もどんどん立ちあがって、ようやく2階席は総立ちになった。続く「Smoke On The Water」からも大盛り上がり。ダサかっちょええリフが客席を熱気で充満した。
 アンコールは「Hush」と「Black Night」。「Hush」はやはり名曲。個人的には一番ドキドキした。オリジナル・メンバーはペイス一人だけしか残ってないけれども、いやしかしこの曲はメンバーが誰になろうともパープル永遠のテーマ曲だと思う。「Black Night」は各自のソロ・パートを交替交替で披露していく構成だが、たった5人だけでも見せる見せる。やはりディープ・パープルは演奏重視の演奏家集団だと再確認。
 ギランは観客からうちわをもらって、パタパタと熱そうに扇いで、すっかりおっちゃん臭さが丸出しだったが、しかし歌謡曲のスターっぽく観客にアピールするあたり、なんだか妙にダサかっちょええ。声は昔ほどパワフルではないが、初老の雄叫びには独特のグルーヴ感があった。
 客層は幅広かったが、目立ったのは50後半のおばちゃんたちだ。嘘みたいにおばちゃんたちが群れていたので僕も驚いた。ディープ・パープルが若かったころは彼女たちも若かったに違いない!


ジョン・ロード(key)
リッチー・ブラックモア(g)
イアン・ギラン(vo)
ロジャー・グローヴァー(b)
イアン・ペイス(dr)



Shades Of Deep Purple (68)
The Book Of Taliesyn (69)
Deep Purple (69)
Concerto for Group and Orchestra (70)
Deep Purple In Rock (70)
Fireball (71)
Machine Head (72)
Who Do We Think Are (73)
Burn (74)
Stormbringer (74)
Come Taste The Band (75)
Perfect Strangers (84)
The House Of Blue Light (86)
Slaves And Masters (90)
The Battle Rage On (93)
Purpendicular (96)
Abandon (98)
Bananas (03)
Rapture Of The Deep (05)

【Live Album】※抜粋
Live In Japan (72)
Nobody's Perfect (88)
Come Hell Or High Master (94)



マシン・ヘッド
Machine Head