ボブ・ディランのバックバンドだった男達が、新たなバンドとしてスタートする。それがその名も<バンド>だった。これほどそのまんまのバンド名も珍しかろう。なにしろ他のバンドにも共通する言葉をバンド名にしてしまったのだから。言ってみれば匿名みたいなものである。しかし、その分、名前に頼らず、純粋に歌を歌って楽しめまいいじゃないかという気楽さに共感を覚える。
このアルバムは、ボブ・ディラン(実はジャケットデザインもディランだ)のペンによる「I Shall
Be Released」など、カバー寄りの曲が目立つ。どの曲もスローなテンポで、ひどく雑なイメージがあるが、その粗さがかえってこのアルバムの魅力ともいってよく、全体を通して、メンバーたちのにじみ出るようなソウルを感じ取ることができる。そしてとてもアメリカっぽい。アメリカの田舎町を思わせるのだ。
しかしながら、彼らは本当に二十歳そこそことは思えないほどに老成している。まず最初に飛び出す「Tears
Of Rage」のいぶしっぷりに驚く。歌も演奏もお世辞にもうまいものじゃないのだが、これがなぜだか妙に心に響くものがある。ロックには上手も下手もないのだと教えられる。ギターもしんみり。アメリカでは恐らくロビー・ロバートソン(本当はカナダ人)ほど味わい深いギターを弾ける男はいないだろう。この1曲を気に入るかどうかで、このバンドが好きか嫌いかはっきりとわかるだろう。
「The Weight」は名曲中の名曲。バンドの代表曲だ。聴いていると嬉しくなってくる曲だ。これはドラマーがリードヴォーカルを担当しているところがいい。これほどドラマーが活躍するバンドも珍しい。とくにフロントマンを置かず、みんなで盛り上がろうぜ、というバンドのスタンスが良い。これはぜひ映像でも見てもらいたい。みんなの歌っているときの顔が良い。本当にいい顔している。これがロック・バンドの本来の姿だと思う。
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