ロック・シーンにおける最重要トリオといえば、60年代はクリーム、70年代はエマーソン・レイク&パーマー、80年代はポリス、90年代はニルヴァーナであろう。今名前をあげたバンドはどれも短命であったが、トリオとは思えぬ演奏ぶりで、寡作ながらも評価が高い。クリームはサイケ世代、ELPはプログレ世代、ポリスはMTV世代、ニルヴァーナはオルタナティブ世代と、60年代・70年代・80年代・90年代の音楽的な時代性をそのまま象徴するようなバンドといえる。この中でもポリスは最も商業的な収益をあげたバンドに違いあるまい。MTV世代とあって、やはりポリスは映像で見るととても面白い。
しかし結成は76年である。当時はパンク・ムーヴメントのまっただなか。スチュアート・コープランドの呼びかけで集まったポリスもやはりパンク・バンドとしてスタートした。パンク・バンドのほとんどが未成年者だったのに対し、彼らはすでに20代後半。パンク・バンドとしてはあまりにも老けすぎたバンド編制である。スティングはそれまでは趣味でベースを演奏していただけの高校教師にすぎなかった。そこに30歳を過ぎるという技巧派アンディ・サマーズをくわえて、大人のトリオが完成した。もとは4人だったが1人抜け、補充は入れなかった。デビューには遅い年齢なので、もはや3人でやらざるを得なかったのかもしれない。しかし、全員金髪でハンサムというのは、ビジュアル的にも有利であった。
メジャーデビューは78年の「ロクサーヌ」。この「ロクサーヌ」は僕はいまだにポリスの一番の名曲だと思う。トリオらしいシンプルを極めた奏法で、ギターもベースもドラムも必要最低限しか弾かないという、まさにパンクとしてのミニマリズムの究極系に達しているといえる。あいまいではなく、はっきりと音を出しているところも注目して欲しい。楽器本来の音の持ち味を生かしている点も称賛に値する。すでにレゲエのリズムを導入しているが、サビの部分のベースラインなど、ゾクゾクするものがある。当時のパンク・トリオといえば、ポール・ウェラー率いるジャムもまた究極のミニマリズムに達し、商業的な成功を収めていたが、ポリスが優れていたのは他のパンク・バンドのような乳臭さがなく、実に洗練された、大人のロック・ソングを歌っていたことにある。
その後ファーストアルバム『アウトランドス・ダムール』を発表。粗削りではあるが、エネルギッシュで、勢いがあり、心に響くものがある。スティングの発声法も瑞々しく、低音も高音も声質が味わい深い。「ソー・ロンリー」、「キャント・スタンド・ルージング・ユー」の歌声などサビの繰り返しが耳に心地よく、素晴らしいの一言だ。そこから人気は急上昇。レゲエのリズムをさらに取り込みつつ、白人的で、彼らだけのもつ独自のグルーヴ感を出していった。さながらそれは白いレゲエとでも表現しようか。
『ゴースト・イン・ザ・マシーン』からはシンセサイザーも導入し、さらにロックの様式美を追求していく。そして83年最高傑作「見つめていたい」を発表。いつまでも聴いていたいベースといい、美しいギター・リフといい、何ともこの曲の良さについては形容しがたく、妥協を許さぬ完璧ともいえるその曲構成は、さすがはスティングというしかない。同作はグラミー賞のソング・オブ・ザ・イヤーに輝くが、『シンクロニシティー』を最後にバンドは自然消滅。以後スティングはソロ活動をスタートし、曲を発表するたびにグラミー賞を受賞するという、ミスター・グラミーとも称すべきミュージシャンに成長。業界人から尊敬を集めている。一方アンディ・サマーズはポリス・サウンドの永久保存のため、解散後もコンピレーション・アルバムを発表。93年にロックの殿堂入りをはたしたのを機に、95年には『ポリス・ライブ』もプロデュースした。
<2008年2月日本公演の模様レポート>
何年か前にスチュアート・コープランドの撮影したホームムービーを元にしたポリスのドキュメンタリーが公開された。僕も拝見したが、ただのプライベート映像の羅列で、とりたてて褒めるほどの映画ではなかったのだが、ポリスの生の姿を知る上では貴重な映像だった。スティングも若々しく(あまり映画の中では出て来ないけど)、こんな時代もあったんだなあと思ったし、アンディ・サマーズのおどけっぷりにも親近感を覚えた。とにかくこの映画がきっかけで、ポリスは2007年に電撃的に最結成し、世間の度胆を抜いたのだ。
その後彼らは世界ツアーを敢行。そして2008年2月、実に27年ぶりの来日公演を成功させたのだ。
なにしろ27年ぶりである。27年なんて想像できるだろうか。これを逃せばもう一生見られないと思っていたので、僕もこのライブに参加してきた。
いや、正直予想以上にもりあがったライブだった。まるでずっと3人でやってきたかのような、そんな協調の輪を感じさせた。
僕が何より感動したのは、バックバンドをつけず、この3人だけで演奏しているということだ。とてもトリオとは思えないほどの音の厚みにぶったまげた。そこにギターとベースとドラムさえあれば、何でもできるんだなあと改めて感心した。スティングがリードボーカルを取っている曲だけ選曲されていたが、とはいえ全曲ポリス時代からの曲だったので、まさに当時のポリスが復活したという感じでそれはもうゾクゾクさせられた。「メッセージ・イン・ア・ボトル」、「シンクロニシティーII」など、当時のノリそのままであった。
じんときたのは、このとき65歳になるアンディ・サマーズの演奏だ。この日の主役はアンディだった。スティングがステージ端で演奏していたのに対し、アンディはステージの中央の一番前にずしんと立って演奏し、2人を牽引していた。カメラもしっかりとアンディの長いギターソロをフィーチャーしていたので僕は俄然嬉しくなった。顔はだいぶ老けてしまったが、ちょっとよぼよぼしながらも、かっこよくギターを弾いていた。バックバンドもいない生粋のトリオ編成だっただけに、ギターの音も目立つ目立つ。
コープランドも老けてますます渋くなったし、ひたすら打ち続ける感じがストイックでかっこいいこと。スティングのダンディさにもしびれまくった。スティングってこんなにスポーティでさわやかな人だったのかという感じ。さすがにファーストアルバムの歌は音程が高すぎて無理があったか、「ロクサーヌ」、「ソー・ロンリー」などは声が出てなかったけど、「キャント・スタンド・ルージング・ユー」と「白いレガッタ」を演奏しているときには僕もかなり熱くなった。「見つめていたい」(ほんと、これはすごい名曲だと思うよ)を歌っているときはスティングはニッコリして、えらく嬉しそうな顔をしていたなあ。魔法にかけられたような1時間半だった。アンコールも2回。たっぷりと楽しませてもらった。僕は歴史の1ページに参加できてとても嬉しく思う。
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