エマーソン・レイク&パーマー
エマーソン・レイク&パーマー

 今ではプログレときたら、普通キング・クリムゾンピンク・フロイドの名前を出すのが当たり前であるが、70年代前半の頃は、誰もがELPすなわちエマーソン・レイク&パーマーの名前をあげたであろう。僕の友達は僕よりも二十歳くらい年上で、ジェームズ・テイラーやキャロル・キングを現役で聴いていたロック・ファンであるが、彼はプログレと聞くなり、必ずELPの名をあげてくる。それほどのバンドである。たしかに70年代前半にELPが発表したアルバムはすべて全英チャートのトップ5圏内に入っているし、ブライテスト・ホープのナンバー1にもなったし、あの計算された構成と、美しいルックスで、当時大スターだったことは想像に難(かた)くない。しかし、僕みたいな90年半ばからようやくロック音楽を聴き出したシロウトにしては、ELPは二流に思えてならなかった。僕は「恐怖の頭脳改革」から入った口なので、それ以前のアルバムが、クリムゾンやフロイドと比べると少し古くさい気がしていたのだ。だが、よくよく聴いてみると、ELPも凄いバンドであることに気づかされた。とくにファーストアルバムに収められた「Take a Pebble」は美しい傑作であるし、曲の後半からはピアノとベースとドラムだけで、ここまで綺麗なロック・ソングが作れるのかと改めて感動したものである。ELPの凄さを一言でいうならば、ギタリスト不在にしてロック的迫力があったこと。そこに尽きる。キーボーディストのキース・エマーソンは、それまでロックの主役といえばギターだという固定観念を覆し、ピアノやシンセサイザーがギターに代わる強力なロック楽器であることを証明した第一人者であった。インプロヴィゼーションなのではないかと思われるライブアルバム「展覧会の絵」も、ほとんどキーボードとベースとドラムの3ピースだけで、実に緊張感のある演奏をやってのけている。
 プログレといえば、大きく二つに分けることができる。イエスやELPのようにキーボードを中心としたバンドと、キング・クリムゾンやジェスロ・タルのようにキーボードをほとんど必要としないバンドである。シンセサイザーは当時<夢のマシン>と言われ、実質上シンセサイザーに作り出せない音はないと言われ、プログレの音楽性を飛躍的に高めたため、その存在価値は大きく、シンセサイザーがあるかないかで、バンドの方向性もかなり変わっていた。キング・クリムゾンはシンセサイザーを一切使わずに、ギター・プログレの頂点を極めたが、一方でELPはシンセサイザーのあらゆる音を駆使し、シンセサイザー・プログレの頂点を極めていったのである。
 僕はこの前、映画館で『モーグ』というシンセサイザーのドキュメンタリーを見た。これはシンセサイザーの仕組みや歴史を語る映画などではなく、単にモーグ博士の私生活に密着しただけの他愛ない映画だったのだが、唯一その映画の中で圧巻だったのはキース・エマーソンのライブ・シーンであった。そもそもモーグ博士は、シンセサイザーを、音を作り出す機械ではなく、ライブ用の楽器として売り出したかったらしく、キース・エマーソンの助言をヒントにミニ・モーグを開発したのだ。
 ちなみにキース・エマーソンは、あのバカテクにして、ライブでグランドピアノごとぐるぐる前転する伝説的パフォーマンスもやっている。いかに人間離れしたミュージシャンであったか。また、グレッグ・レイクのみずみずしいボーカルもELPの美点であろう。レイクのビンビンのベース・プレイも、たしかにギターを必要としない迫力がある。カール・パーマーのドラムも凄い。とくにパーカッション・シンセサイザーを導入してからはテンションの張りつめた演奏に定評があった。ELPは、最強のプログレとはいわないまでも、テクニック面、あるいはトリオ編成という点では、他に敵うものはいなかった。
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ベストフィルム「Karn Evil 9」(YouTube)


キース・エマーソン(key)
グレッグ・レイク(b)
カール・パーマー(dr)



Emerson Lake & Palmer (70)
Tarkus (71)
Trilogy (72)
Brain Salad Surgery (73)
Works 1 (77)
Works 2 (77)
Love Beach (78)
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Emerson Lake & Powell (86)
Black Moon (92)
In The Hot Seat (94)

【Live Album】
Pictures At An Exhibition (71)
Ladies And Gentlemen (74)
In Concert (79)
Live At The Royal Albert Hall (92)
Live At The Isle Of Wight Festival (98)
Then & Now (98)

 


恐怖の頭脳改革
Brain Salad Surgery