ムーディー・ブルース

ムーディー・ブルースの最も讃えるべきところは、メンバー5人全員が作曲家だということだ。ほとんどのヒット曲は、ギタリストのジャスティン・ヘイワードの作とはいえ、他の4人も堂々たる貫禄でプログレの名曲を手がけてきた。アルバムのバランスでいえば、彼らほど平等に5人が曲を分け合うバンドはあるまい。そのため、ここで選択する楽曲も5人の作品が平等に票を分ける結果となった。
決して侮れないのがドラマーのグレアム・エッジ(写真左上)の存在だ。普通バンドのドラマーというのは日陰の男になりがちだが、グレアムは積極的に作曲し、4人を凌ぐ傑作を多数作曲している。バンドでは唯一人、彼だけが異動歴がなく、みんなを引っ張ってきた。この選曲は、彼のドラムの音の魅力に酔いしれる選曲でもある。

「Candle Of Life」
ベースのジョン・ロッジ作。ムーディー・ブルースお得意のスローテンポのバラード。何百年という時の流れを感じさせる、ジャケットのイラストにもぴったりの曲。何度聴いてもじんとくる。ムーディー・ブルースには夜が似合う。

「Higher And Higher」
ドラムのグレアム・エッジ作。これを初めて聴いたときの衝撃は忘れられない。ビビビと脳天に電撃が走った。火山が噴火するかのような圧倒的な躍動感。グレアムの跳びはねるようなドラムがかっこよすぎる!

「Out And In」
キーボードのマイク・ピンダー作。これが正しいメロトロンの使い方! メロトロンの第一人者であるマイクのメロトロン節が猛烈に炸裂する彼の集大成。眩惑的なリードボーカルもたまらない。
「Gypsy」
ギターのジャスティン・ヘイワード作。このワクワクするようなメロディ。ジャスティンらしいガツンと一発決め込む曲。5人の演奏も見事なアンサンブルを奏でる。ライブでは間違いなく盛り上がるであろう。アーアー!の雄叫びコーラスが最高。

「Beyond」
ドラムのグレアム・エッジ作。5人全員すべての楽器が見事な調和を見せるインストゥルメンタルだが、際立つのはやはりドラム。グレアムのドラムになんともいえない魔力を感じてしまう。バートごとに交錯するキーボードのイメージ音楽も、壮大なドラマを想像させる。

「Nights In White Satin」
ギターのジャスティン・ヘイワード作。バンドで最も有名な曲。ゆっくりと時が流れていくようだ。オーケストラと共演したことで、ロックの領域を越えたプログレッシヴ・ロックが産声を上げた。スタジオ盤のミックスも絶妙だが、よりわかりやすいライブ音源も味がある。

「Peak Hour」
ベースのジョン・ロッジ作。もとはR&Bグループだったムーディー・ブルースらしいノリノリの曲。ジョン・ロッジのボーカルが遊び心に溢れていて楽しい逸品。ギターがいかにも60年代してるぞ。ぜひライブで聴きたい。
「Nice To Be Here」
フルートのレイ・トーマス作。レイの曲は間違いなくベスト。ちょっとこの構成は演劇タッチか。曲の雰囲気からして、田園風景が浮かんでくる。だんだん曲が盛り上がっていくところに癒される。ベースも面白い。

「Emily's Song」
ベースのジョン・ロッジ作。アルバム自体の出来栄えでいえばバンドのベストといえるものだが、際立った曲が意外と少ない。アルバムが全体の調和を狙ったものだからであろう。しかしその中で「Emily's Song」は大切にしておきたい温かい宝石箱のような輝きを持つ。

「Ride My See-Saw」
ベースのジョン・ロッジ作。ムーディー・ブルースはやっぱりロック・バンドなんだなあとつくづく思わせる曲。ベースもドラムも非常にわかりやすい。普通にロックをやらせても、こんなに素晴らしい曲になっちゃうんだから、プログレバンドという肩書きは伊達じゃない。
「Legend Of A Mind」
フルートのレイ・トーマス作。前作ではオーケストラを導入してやっていたことを、今回はオーケストラを頼らずに実戦。それでもオーケストラと共演しているかのような躍動的な音楽に仕立て上げている点はさすが。レイの枯れたフルートの音も絶品!
「The Actor」
ギターのジャスティン・ヘイワード作。「Visions Of Paradise」と共にレイのフルートをフィーチャーした曲としては屈指の傑作。ちょっと臭いけれども、やっぱり乗せられちゃう感動作。このような曲は、他のロック・バンドには真似できないだろう。
「Om」
キーボードのマイク・ピンダー作。ビートルズ以後、ローリング・ストーンズその他、あらゆるバンドがインド音楽に手を染めたが、ムーディー・ブルースのこの曲は、数あるインド音楽の中でも最も良くできた作品ではなかろうか。これは彼らなりの野心作である。
「Question」
ギターのジャスティン・ヘイワード作。ジャスティンがかき鳴らすフォーク・ギターが思いの外心地よい。ところどころでハッタリをきかせるキーボードもウマイ。過小評価されているが、実にムーディー・ブルースらしいダイナミックな楽曲だと思う。
「Never Comes The Day」
ギターのジャスティン・ヘイワード作。ジャスティン節満開の温かいナンバー。映画のように展開が色々あって、リズミカルで、聴いているとなんだか不思議と嬉しくなる効能あり。バンドのカラーを知る意味でもオススメ。