ムーディー・ブルース
ムーディー・ブルース

 我慢ならないのは、ほとんどの人が、プログレについて語るときムーディー・ブルースの名前を忘れてしまっていることだ。僕ならば、プログレと来たら、まっさきにムーディー・ブルースの名前をあげるところだ。理由は大きく3つある。1、彼らが初めて「プログレッシヴ・ロック」といわれるものを作ったこと。2、セールス面でも目覚ましいヒットを飛ばしていたこと。3、これが一番重要だが、他のプログレ・バンドとは違い、彼らは最もプログレ然としたものを発表していたことだ。

 ムーディー・ブルースの歴史は長い。結成は64年なので、ローリング・ストーンズと同じころである。もともとムーディー・ブルースはR&Bのグループだった。バンド名に偽りのない、ムードのあるリズム&ブルースを演奏していたわけである。この時のメンバーはデニー・レイン(g)、クリント・ワーウィック(b)、グレアム・エッジ(dr)、マイク・ピンダー(key)、レイ・トーマス(flute)の5人。R&Bを演奏するにしては、多すぎる編成のような気もする。ファースト・アルバム『ゴー・ナウ』はまだプログレッシヴ・ロックに到達していなかった。とはいえ、前面に出てアピールするフルートのサウンドはプログレの片鱗(へんりん)を示しているといえる。このアルバムの後、フロントマンのデニー・レインとクリント・ワーウィックが脱退し、地味な3人だけが残ってしまった。それでもバンドは解散しなかった。

 残った3人が新しくフロントマンに招き入れたのは、彼らよりも4・5歳若く、ルックスも全く申し分のないジャスティン・ヘイワード(g)とジョン・ロッジ(b)の最強コンビで、ここにムーディー・ブルースのゴールデンメンバー5人が揃う。プロデューサーにはトニー・クラークが就任。当初はヘイワードもR&B寄りの曲を歌っていたが、作風を変えることを検討する。ちょうどこの時期マイク・ピンダーがメロトロンを購入。愁(うれ)いを帯びたそのサウンドを前に、彼らは新しいロックの可能性に気づいた。

 まず最初の大事件が『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』の発表だった。ビートルズの『サージェント・ペパーズ』以後、ロックに「コンセプトアルバム」という新しい概念が誕生したが、ムーディー・ブルースもそこにいち早く目を付け、ロックをよりドラマティックにスケールアップし、クラシック的な解釈で押し広げてみてはどうかと考えた。そこで、人間の一生を一日に例えたコンセプトアルバムを、オーケストラと共演して作ることにしたのだ。それが『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』だった。「ピーク・アワー」など、一部の曲はR&Bの雰囲気を残しているが、全体を通して、まったく新しいロック・サウンドを奏でていた。彼らの最高傑作とされる「サテンの夜」もここに登場。今ではこのアルバムが史上初の「プログレッシヴ・ロック」として通説になっている。続く『失われたコードを求めて』からはオーケストラの力を得ずとも、5人の演奏をもってクラシカルなスケール感を出すことに成功。以後、このゴールデンメンバー5人により大作が続々と発表され、すべてが英米で大ヒット、ムーディー・ブルースはプログレの頂点を極めていくのだった。

 67年から72年にかけてのアルバム7枚は、たしかにプログレの7教典といえるものである。音楽史におけるプログレの隆盛期は72年ごろから77年ごろにかけてまでだが、つまりムーディー・ブルースの活動時期は他のバンドとは一時代飛び抜けて早かったことになる。もしかしたら成功が早すぎたゆえに過小評価されているのかもしれない。

 先ほど僕はムーディー・ブルースが最もプログレ然としたものを発表していたと書いたが、僕がそう思うのは、彼らがプログレのバンドの中でも最も正統的な演奏をしているからだ。例えば『子どもたちの子どもたちの子どもたちへ』は、全体的を通して聴いてみると、壮大な世界を想像させる重厚なサウンドになっているが、楽器のひとつひとつを部分的に聴いてみると、驚くほどに演奏が基本的な組み立てでわかりやすい。そこが僕が正統的という理由である。ギターはいかにもギターらしいヘヴィな音を出しており、ドラムもまたいかにもドラムっぽいノリだ。ロックのダイナミズムがそこにはある。

 彼らのいいところは、メンバー5人全員が作曲ができたことだ。各自が曲を提供し合い、お互いの音を讃え合った。こうしたメンバー間の楽器要素の調和こそ、プログレの重要項目である。5つの異なる音が、ひとつに組み合わさることで、信じられない化学変化が起きる。その変化の度合いがプログレというジャンルでは格段に違っていた。これぞロックのだいご味である。このジャンルの開拓者こそ、紛れもなくムーディー・ブルースだった。

 80年代に入り、マイク・ピンダーが脱退してからは、だいぶ方向性が変わってきた。元イエスのパトリック・モラーツが加入し、『魂の叫び』を発表。なんだかエレクトリック・ライト・オーケストラみたいなプログレになってしまったが、ベースとキーボードの音がポップな「ジェミニ・ドリーム」は全米で3週連続1位となるヒットを飛ばした。彼らは80年代を生き抜いた数少ないプログレ・バンドのひとつだった。僕はこっちのオシャレ系ムーディー・ブルースも案外好きである。
ムーディー・ブルース・ソング・ランキング
Amazonで「ムーディー・ブルース」を検索


ベストフィルム「Nights In White Satin」(ワイト島から)(YouTube)


ジャスティン・ヘイワード (g)
ジョン・ロッジ (b)
グレアム・エッジ (dr)
レイ・トーマス (flute)
マイク・ピンダー (key)



The Magnificent Moodies (65)
Days Of Future Passed (67)
In Search Of The Lost Chord (68)
On The Threshold Of A Dream (69)
To Our Children's Children's Children (69)
A Question Of Balance (70)
Every Good Boy Deserves Favour (71)
Seventh Sojourn (72)
Octave (78)
Long Distance Voyager (81)
The Present (83)
The Other Side Of Life (86)
Sur La Mer (88)
Keys Of The Kingdom (91)
Strange Times (99)
December (03)

【Live Album】
Caught Live + 5 (77)
A Night At Red Rocks (93)
Hall Of Fame (00)
Lovely To See You (05)



童夢
Every Good Boy Deserves Favour