「ホワイトアルバム」は、ビートルズのアルバムとしては、そのまとまりは最低といえるものだが、音楽的なバラエティの豊かさでいえば他を遙かに凌ぐ。ビートルズ最初で最後の二枚組アルバムで、4人各自が作ったソロ・ナンバーを寄せ集めて作った作品にして、タイトルにバンド名を持ってきた皮肉。「Helter
Skelter」「Revolution 9」「Good Night」などはそれ単体で聴けばなかなかの傑作であるが、アルバムの流れで考えると、これらはどう考えても場違いで、従来これほどの曲はボツになってしかるはずだが、そこにあえて反発し、あらゆる音楽をしっちゃかめっちゃか詰め込んだその精神は、ビートルズが築いてきたロック文化そのもの。ロックとは多様化する音楽であり、常に進化していく音楽であるということを、ビートルズは最も短い期間に証明してくれたバンドであった。
それまで曲の美しさや内容、ハートでファンを熱くしてきたビートルズが、一転して形式主義的な姿勢をしているところが注目すべきところである。とくにジョンはいい曲を書いている。「Dear
Prudence」「Cry Baby Cry」の美しさ。「I'm So Tired」「Sexy Sadie」の何とも言えぬけだるさ。「Everybody's
Got Something To Hide Except Me And My Monkey」の無茶苦茶なノリ。中でもベスト・ソングは「Happiness
is a Warm Gun」であり、これはジョン・レノンが作曲した数ある楽曲の中でも最もアグレッシブな音楽構成をしている。
ポールの曲では宅録的な「Why Don't We Do It In The Road」に独自の渋味があって出色だが、もっと愛すべきはカントリー・ロックの「Rocky
Racoon」であり、ポールお得意の物語形式の歌詞と、七色に変化する声の魅力が堪能でき、このアルバムの中では僕の最も好きな曲だ。
演奏面では「Long, Long, Long」が良い。いかにもジョージらしい宗教色の表れた静かな曲だが、メンバーの演奏が際立っている。ちなみに、このアルバムに収められた曲「Piggies」などは、チャールズ・マンソン事件を引き起こす発端となったことでも知られており、あらゆる意味でこれはいわく付きのアルバムといえる。 |