キャメル
キャメル

 このバンド、好きだなあ。デビュー当時は全員まるでいじめられっこみたいな顔をしてたんだけど、でも曲は昔から良かった。人間、自信がついてくると、自然とルックスも良くなってくるという好例である。70年代後期のころにはこのバンドの連中も本当にいい顔になった。

 おそらくキャメルは、インストゥルメンタルを中心としたロック・バンドでは実力ナンバー1だろう。音楽を聴いたくらいじゃ泣くわけがないと思っていた僕が、アンディ・ラティマーのギターを聴いて、思わずじんときてしまったのだから。僕はかつて、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアのギター・ソロでも涙腺がゆるんだことがあったが、ラティマーのギターにはギルモアのそれとはまた違った感動があった。

 キャメルのアルバムは1枚目からどれも優れた出来で、初期のころならば『レインダンス』あたりまで、どこから入っても面白いと思うが、やはり彼らの名声を決定づけた3作目のアルバム『スノー・グース』は外せないだろう。チャートにも上位ランクインし、これが評価されて、彼らはメロディメイカー誌のブライテスト・ホープに選ばれた。

 『スノー・グース』は全曲がインストゥルメンタルだった。今まで歌ものの良作を多数発表していたのに、ここに来てついにインストだけで勝負に出たのは英断だったといえる。このアルバムは、ポール・ギャリコの小説を音楽で表現することを目的に作ったものだが、たしかに、目をつむって聴いていると、素朴ながらも、そこに物語をイメージすることができる。それはまるでギターが言葉を語っているかのようである。弦の一弾き一弾きからは、にじみでる感情を感じとることができる。ラティマーはファースト・アルバムではまだ従来のロック式エレキ・ギター奏法に則った形をとっていたが、ここにきて、ギターで喜びや悲しみなどの感情表現ができることを確信し、「叙情派ギター」のスタイルを完全に修得した。リムスキー・コルサコフやドビュッシーのような交響詩あるいは映画のサウンドトラックのような音楽を、ギターの電気的な音で表現しようとするラティマーの腕にはただただ驚くばかりである(時にはフルートも使う)。以後、彼は徹底してこのスタイルを探究していく。その生き様的はジェフ・ベックにも通じるものがあるが、ラティマーはもっとストイックな印象を受ける。彼は小手先のテクニックよりも音楽の持つ感情をいかに表現するかにこだわりつづけていた。

 キャメルのもうひとりの功労者がキーボーディストのピーター・バーデンス(元ゼムのメンバー)。初期キャメルは、バーデンス抜きには語れない。もともとキャメルはバーデンスが曲のカギを握るバンドだったが、その主導権が途中からラティマーに移っていったのだ。初期作品の大半はこの2人のどちらかが作曲している。ラティマーのギターも彼のキーボードがあって初めて真価を発揮した。ラティマーのギターは感情的だが、他のギタリストのようなケレンが若干足りない。そこを補うのがバーデンスのキーボードである。彼のキーボードにはハッタリが効いており、遊びも多い。この両者の個性が混ざり合うと、輪郭がくっきりし、バランスが保たれ、そこにロックの躍動感が生まれる。初期キャメルの魅力は、この2人の相互作用といっても過言ではないだろう。2人の技術が冴え渡る「Lady Fantasy」(『ミラージュ』収録)はまさに入魂の傑作だ。

 バーデンス脱退後は、幾度とメンバーチェンジを繰り返し、実質ラティマーのユニット的なバンドになった。84年に解散し、ラストコンサートも行ったが、92年に「怒りの葡萄」をテーマにした『Dust And Dreams』で復活し、ファンを喜ばせた。その後もキャメルはアルバムを精力的に発表している。
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ベストフィルム「Snow Goose」(YouTube)


アンディ・ラティマー (g)
ピーター・バーデンス (key)
アンディ・ワード (dr)
リチャード・シンクレア (b)
メル・コリンズ (sax)



Camel (73)
Mirage (74)
The Snow Goose (75)
Moonmadness (76)
Rain Dances (77)
Breatheless (78)
I Can See Your House From Here (79)
Nude (81)
The Single Factor (82)
Stationary Traveller (84)
Dust And Dreams (92)
Harbour Of Tears (96)
Rajaz (99)

【Live Album】
A Live Record (78)
Pressure Points (84)
Never Let Go (93)



蜃気楼
Mirage

 

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