一昔前、スーパーグループなるものが流行った。人気バンドのスタープレイヤーたちが結集したユニットのことである。恐らく68年がスーパーグループ元年で、その年マイク・ブルームフィールドとアル・クーパーとスティーヴン・スティルスがジョイントして「スーパー・セッション」なるアルバムを発表し、絶賛された。同年はクロスビー・スティルス&ナッシュ(バーズとバッフォロー・スプリングフィールドなどのメンバーが結集)も登場している。
 やがて69年にブラインド・フェイス(トラフィックとクリームが合体)、73年にベック・ボガート&アピス(ベック・グループとヴァニラ・ファッジが合体)などといった最強のグループも生まれた。スーパーグループはレベルが高すぎることと、巨大な個性のぶつかり合いともいえる編成からか、継続していくのが難しく短命に終わったものが多い。ブラインド・フェイスもベック・ボガート&アピスもたったの一枚を出して終わっている。1枚だからこそ、ありがたみもあるのではあるが。
 88年、トラヴェリング・ウィルベリーズなる、有名なミュージシャンがサングラス姿で偽名で結成したスーパーグループもあった。その正体はジョージ・ハリスン、ジェフ・リン、ロイ・オービスン、トム・ペティ、ボブ・ディランと、これは最強の覆面バンドではないか。各自が名前を隠したのは、自分のレコード会社との契約をやぶるわけにはいかなかったからである。
 もっとすごいバンドもある。ローリング・ストーンズの「ロックン・ロール・サーカス」でたった一度だけ結成した<ダーティ・マック>だ。これはヴォーカルがビートルズのジョン・レノン、ギターがクリームのエリック・クラプトン、ベースがローリング・ストーンズのキース・リチャーズ、ドラムがエクスペリエンスのミッチ・ミッチェルという夢の共演バンドである。これこそ史上最強のスーパーグループだろう(ただしこれもたった1曲を演奏して終わる)。
 60年代のケツから70年代の頭にかけては異様な盛り上がりを見せていたのに、それから30年、スーパーグループといえるバンドが消えた。
 その沈黙がついに破られた。クイーンである。クイーンはフロントマンのフレディ・マーキュリーが死んでから活動を休止していたのだが、今年ついに再結成を果たした。フレディなしのクイーンなんて普通なら考えられないことだったので、これはロック・シーンにおける大事件といえる。しかもヴォーカルが凄い。実に意外な人物が抜擢された。フリー、バッド・カンパニーで名をはせたポール・ロジャースである。誰それ?なんて言わないで欲しい。ポール・ロジャースは僕のもっとも尊敬するヴォーカリストの一人。クイーンのヴォーカルとしては、たしかに唯一許せる男である。
 海外の音楽の本で、あるアンケート調査があった。ミュージシャンに「あなたの尊敬するヴォーカリストは誰ですか?」と質問したところ、もっとも名前の多かったのがジョン・レノンで、次がポール・ロジャースだったのだ。三番手がボブ・ディランだったのだから、つまりミュージシャンの間ではいかにポール・ロジャースが尊敬を集めるヴォーカリストだったか、わかっていただけるだろう。
 ポール・ロジャースはフレディ・マーキュリーとはまったく声質が違うし、歌い方も全然違う。それがクイーンのヴォーカルを担当するなんて、考えただけでもワクワクさせられるだろう。下手な物真似とはワケが違う。まったく新しい個性を見せてくれることだろう。
 この前、僕は新生クイーンが実際に歌っている映像をテレビで見た。すごかった。大好きなポール・ロジャースがいまだに健在だったことに感動し、彼がクイーンのナンバーを歌っていることに無性に興奮させられた。
 ブライアン・メイはポール・ロジャースについて、馬が合うと言っている。ポールがまったくフレディ・マーキュリーを意識してないからこそ、素晴らしいチームプレイが発揮されている。クイーンはチームプレイが素晴らしいバンドだけに、ポール参加による再結成は純粋に嬉しい。思えばロック・シーンにおいて、かつてこのような予想外の復活劇はなかっただろう。これこそ真のスーパーグループといえるものである。(2005/1/27)