ベスト・アルバムは、アルバムにしてアルバムにあらず。俺がこのサイトで常に叫び続けているロック・アルバムの条件は、アルバムがそれ一枚でひとつの「作品」として作られていること。
 一曲目は序幕らしく、最後の曲はラスト・シーンらしく。それがアルバムってものさ。アナログ時代なら、A面B面の関係まで考慮して、バランスよく構成してあったものだ。
 それに対して、ベスト・アルバムは、ただの名場面ダイジェストだ。全体のバランスは不釣り合いで、一本の作品としては未完成だ。
 楽曲なんてものは、前の曲と後の曲の相性に左右されるものである。ビートルズの「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」だって、名盤「サージェント・ペパーズ」の最後にあって初めてそのすごさが発揮されるのであって、曲単体だけでは役不足なのだ。
 ベスト・アルバムでは、収録曲それぞれが独立しているため、一曲のウェイトがだいぶ弱くなっている。音質や雰囲気も曲ごとにぎくしゃくしているし、クライマックス曲ばかり立て続けに聴いていても面白いはずがない。
 ベスト・アルバムで最も懸念されるのは、それを聴いた人が「ふーん、このバンド、あんまり大したことないじゃん」という感想を抱いてしまうこと。ビートルズが実際よりも過小評価されているのはベスト盤(赤盤・青盤)の選曲ミスが起因している。
 だから俺は絶対にベスト・アルバムだけは買ってほしくない。アルバムを常に「作品」として仕上げてきたピンク・フロイドも、一枚一枚でスタイルをがらりと変えてきたシェリル・クロウも、ベストを買うくらいなら、どれか一枚オリジナル・アルバムを買った方が、断然見返りがいいのだ。
 なにっ?金がない?  だったら、なおさらベスト盤を買うなんて無駄遣いはしないでもらいたい。(2004/4/16)