フェスティバル・エクスプレス

 2003年、イギリスとオランダ合作で、ある変わったロッキュメンタリー映画が製作された。とんでもない掘り出し物。それは1970年カナダで開催された幻のロック・フェスティバル、<フェスティバル・エクスプレス>の全貌を捉えた映画だった。これはロック史的にみれば、重大事件だ。今まで<フェスティバル・エクスプレス>は一部のマニアの間では、<カナダのウッドストック>とまで言われていた伝説的なフェスティバルだったが、ほとんどの人々にとっては、そういう歴史があったこと自体、知られておらず、関係者陣からも長らく忘れられていたイベントだった。その映像が残っていたのだからこれはまさしく大事件。発見されたフィルムはまったく編集されておらず、膨大な巻数であった。音も全くシンクロしておらず、現像すらしていないフィルムまであった。まるでジグソーパズルのようなその記録フィルムを、「ビートルズ・アンソロジー」のディレクター、ボブ・スミートンが90分にまとめあげ、なんとか公開に至った。日本では2005年に公開され、「ウッドストック」以来のこの本格的なロッキュメンタリー映画に、音楽マニアは熱狂した。なにしろ全部がまるごと初公開映像なのだから!

 <フェスティバル・エクスプレス>とは、どのようなフェスティバルだったのか。それは、列車をひとつ借り切って、カナダを一週間かけて横断しながら、ときどき列車をおりて、現地で野外ライブをするというもの。一番楽しかったのはやっていたミュージシャンたち当人だったというように、まさにこれはミュージシャンのためのライブだったといえる。イベントと並行して製作された映画の方も、主にイベントスタッフ側に視点をおいた「ワイト島フェスティバル」、主に観客側に視点をおいた「ウッドストック」とは対照的に、「フェスティバル・エクスプレス」は、主にミュージシャン側に視点をおいた構成になっている。そのため、映画で見るべきところは、ミュージシャン達のプライベートな生の姿である。ライブ会場のでパフォーマンスよりも、列車の中で酒を飲み、ヤク浸けになって、自由気ままにわいわい乱痴気騒ぎしているところの方がむしろ印象深い(全員イベント中は風呂に入っていなかったらしいから臭かったろうあな)。

 興味をひかれるのは、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアと、ジャニス・ジョプリン、バンドのリック・ダンコがぐでんぐでんに酔いつぶれながらも楽しくセッションをする一幕だ。本当に幸せそうに演奏している。ジェリー・ガルシアがジャニスに真剣に「初めて会ったときから愛してた」と語りかけ、ジャニスが「もう嘘ばっかり」とおどけるところが感慨深い。この3ヶ月後にジャニスが亡くなったことを思うと、じんとくるものがある。3人とも今はもうこの世にはいない。

 映画の構成としては、当時フェスティバルに参加したミュージシャンにインタビューし、当時を振り返ってもらう形式の映画になっている。さすがに33年のブランクは長い。それゆえ、33年の音楽史を総括して、現代の目線から客観的に33年前のフェスティバルと、当時の時代性を見つめ直しているところにこの映画の意義がある。また、このイベントの主催者ケン・ウォーカーは、ジョン・レノンとエリック・クラプトンが出場したトロント・ロックンロール・フェスティバルを手がけた大人物でもあるが、彼のインタビュー映像での熱血漢ぶりも映画のひとつのアクセントになっている。

 出演ミュージシャンはカントリー・ロック系のバンドが目立つが、その中でも目玉はやはりグレイトフル・デッド。彼らはウッドストックにもワイト島にも出場していたにも関わらずその映像が残っていなかった。ところが、この映画では存分に当時のデッドの演奏ぶりを満喫することができる。ファンなら必見だ。

 この他にも、カントリー・ロックの雄フライング・ブリトー・ブラザーズの映像も貴重だし、日本で当時時のバンドだったマシュマカーンの演奏もじつに素晴らしい。ロビー・ロバートソンのメガネスタイルも悪くないが、ウッドストックにも出ていたシャ・ナ・ナの演技もなんだかダサダサで好きだなあ。余談だが僕が初めて手にしたブルースのCDがバディ・ガイだったから彼の出場も嬉しかった。

 DVDの特典ディスクでは、映画に収められなかったその他の映像も収録。歌詞に字幕がつけられているが、この字幕がすごく良かったので、意外な発見であった。
 インタビュー特典では、グレイトフル・デッドのフィル・レッシュが野外フェスティバルの醍醐味について語ってくれた。「野外フェスは好きだ。観客が踊っているのが見えるし、壁がないから音が反響せずにクリアな音が出せる。昼間ならなおさらいい」
 まさに野外フェスの醍醐味は、フィル・レッシュの言うように、ステージの明るさ、音の開放感、この2点に尽きるといえるだろう。(2006/6/3・ヒデマン)

ジェリー・ガルシア
グレイトフル・デッド

ジャニス・ジョプリン
ジャニス・ジョプリン

ロビー・ロバートソン
バンド

バディ・ガイ
バディ・ガイ・ブルース・バンド

フライング・ブリトー・ブラザーズ
フライング・ブリトー・ブラザーズ


シャ・ナ・ナ

マシュマカーン
マシュマカーン

デラニー&ボニー
デラニー&ボニー

 


「フェスティバル・エクスプレス」
DVD(ポニーキャニオン)