ウッドストック・フェスティバル

 67年のモンタレー・ポップ・フェスティバル以来、アメリカだけでも何十という野外フェスティバルが開催されたが、その中でも最も記憶されているのは、ニューヨークの郊外で開催され、約30組のバンドが参加したウッドストック・フェスティバルで間違いあるまい。今でも野外フェスといえば誰しも「ウッドストック」を引き合いに出す。大がかりな野外フェスを企画するたびに主催者側は「第二のウッドストック」とか「ウッドストックの再来」とか銘打って宣伝したがるのも、いかにウッドストックの影響力が強かったかを物語っている。

 この野外フェスは、あらゆる意味でも成功だった。まずその動員数である。たった3日で40万人である。1日に20万人は観客がひしめき合っていたであろう。上の写真を見てもわかるとおり、これだけの人間が一カ所に集まったのは20世紀の歴史をみても、このときだけではないだろうか。しかもその全てが若者ときたものだ。このとき、マスコミはウッドストックについて「ヒッピーの集会」と書いた。3日間、昼・夜・早朝と歌を聴き、そこに寝泊まりするイベントである。ドラッグをやる奴もいたし、素っ裸でたわむれる輩もいた。トイレは不便だったし、仲間とはぐれる者もいた。大雨に見舞われて会場は泥沼状態になった。道路交通は完全に停止し、食料を運ぶ手段もなく、電話線はパンクした。こんな状況でも大きな問題がなかったのは奇跡に近い(死者が出たと記録されているが、それは交通事故であったため、フェスティバルの責任ではない)。しかし、近所の人々は大迷惑だったようで、この全貌を記録した映画「ウッドストック 愛と平和と音楽の三日間」では、近所の困り果てた様子などが克明に捉えられている。この若者たちの集まりを良しとする大人たちと、「肥だめ」といって批判する大人たちの意見の対立なども興味深く描かれている。

 あまりにも客が多すぎるため、管理が行き届かず、主催者側は事実上入場料を無料に設定した。映画の中で主催者は「これは歴史的イベントだ。お金の問題じゃない」と語っていた。客席をみているだけでも壮観だったろう。予想を数倍も上回る客数を動員したことで、主催者側はもはやお金のことなどどうでもよくなっていた。フェスティバルは大赤字となるが、自分のイベントが歴史に刻まれるのなら、それも名誉なことだと思ったのだろう。結局のところ、話題が話題を呼び、この記録映画が大ヒットしたことで、主催者側に損失はなかったと言われている。同作はアカデミー賞のドキュメンタリー映画賞を受賞しており、日本のキネマ旬報ベスト・テンでも20位内にランク・インした。ロックについてのドキュメンタリーとしては、たしかにこれは白眉といえるものであった。ロックの映画というよりも、歴史映画として客観的な視点から描いているところが勝因である。ミュージシャンよりも観客を主体に描き、カウンターカルチャーという時代の側面として象徴的に描いたことで(そのためR指定になった)、この音楽祭がいまだに語り継がれる一大ヒストリーとして永遠に人々の心に記憶されることになったのだ。

 この映画、映像の画質はあまり綺麗なものではないのだが、同一フレーム内に2つ以上の映像を配置するマルチスクリーンを活用して、3時間(ディレクターズカットでは4時間)の上映時間内に、それ以上の情報をぎゅうぎゅうに詰め込んで、会場の混乱ぶりを大いに演出しているところが面白い。

 僕がこの映画で最も感動したのは、トイレの掃除夫が出てくるところだ。僕はいつもこのシーンをみるたびにホッとさせられる。掃除夫の「私の息子もこのイベントに来ているよ。もう一人の息子はベトナムだ」という言葉が泣かせる。自分の敷地をイベントのために貸し出した農場主が挨拶するシーンも好きだ。すごく人の良さそうなおじさんで、見ているだけでも嬉しくなる。ラスト・シーンで誰もいなくなった農場にゴミの山だけが残った光景も印象深く、映画の切り口のユニークさに唸らせる。

 参加バンドについては、これが初披露となるサンタナの活躍ぶりが目立つ。「ソウル・サクリファイス」はインストゥルメンタル曲だったが、マイク・シュリーヴのドラム・プレイは圧巻だった。

 会場を興奮の渦に巻き込んだスライ&ファミリー・ストーン、半分狂ったようにエア・ギターを弾くジョー・コッカーのパフォーマンスも必見だ。

 そしてジミ・ヘンドリックス。彼が出場したときには暦ではもう4日目の朝になっていたため、会場には百人程度しか観客が残っていなかった。それでも、彼がギターで弾くアメリカ国歌は、この上ない名演で、フェスティバルに心地よい余韻を残している。(2006/6/4・ヒデマン)

ウッドストックDVD8月15日(金)参加ミュージシャン
リッチー・ヘヴンズ
カントリー・ジョー・マクドナルド
ジョン・セバスチャン
インクレディブル・ストリング・バンド
スウィートウォーター
バート・ソマーズ
ティム・ハーディン
ラヴィ・シャンカール
メラニー
アーロ・ガスリー
ジョーン・バエズ

8月16日(土)参加ミュージシャン
クウィル
サンタナ
キャンド・ヒート
マウンテン
ジャニス・ジョプリン
スライ&ファミリー・ストーン
グレイトフル・デッド
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル
フー
ジェファーソン・エアプレイン

8月17日(日)参加ミュージシャン
ジョー・コッカー&グリース・バンド
カントリー・ジョー&フィッシュ
テン・イヤーズ・アフター
バンド
ブラッド・スウェット&ティアーズ
ジョニー・ウィンター
クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング
ポール・バターフィールド・ブルース・バンド
シャ・ナ・ナ
ジミ・ヘンドリックス

リッチー・ヘヴンズ
リッチー・ヘヴンズ

カントリー・ジョー・マクドナルド
カントリー・ジョー・マクドナルド

ジョン・セバスチャン
ジョン・セバスチャン

アーロ・ガスリー
アーロ・ガスリー

ジョーン・バエズ
ジョーン・バエズ

サンタナ
サンタナ

キャンド・ヒート
キャンド・ヒート

スライ&ファミリー・ストーン
スライ&ファミリー・ストーン

フー
フー

ジェファーソン・エアプレイン
ジェファーソン・エアプレイン

ジョー・コッカー
ジョー・コッカー&グリース・バンド

テン・イヤーズ・アフター
テン・イヤーズ・アフター

クロスビー・スティルス&ナッシュ
クロスビー・スティルス&ナッシュ

ジミ・ヘンドリックス
ジミ・ヘンドリックス