Beginnings
1975
Steve Howe

 


Fish Out Of Water
1975
Chris Squire

 


Ramshackled
1976
Alan White

 


The Story Of I
1976
Patrick Moraz

 


Olias Of Sunhillow
1976
Jon Anderson


 ファースト・アルバムのときから、1年に1枚新作発表という落ち着いたペースをずっと守り続けていたイエスだったが、「リレイヤー」のツアー終了後、いったん活動を休止することにする。これは解散宣言ではない。一度ソロとして何かやってみるのも面白いじゃないかと考えてのことだった。
 こうしてクリス・スクワイア、ジョン・アンダーソン、スティーヴ・ハウ、アラン・ホワイト、パトリック・モラーツの5人は、それぞれ生まれて初めてのソロ・アルバムの制作にとりかかった。各自が自分一人で作曲し、プロデュースを手がける。とくに一人一人の自己顕示欲が強いと言われたバンドのソロ・プロジェクトである。いったい誰が一番成功するか、5人で一斉に駆け比べだ。
 1年前、リック・ウェイクマンがイエス在籍時にソロ・アルバム「ヘンリー八世の六人の妻」を出して大いに成功していたので、ここにきて他のイエス・メンバーがソロに興味を持ったのは自然なことであろう。とはいえ、余興としての意味の方が強かったようにも思える。本気でやってしまうとバンドに戻ってこなくなるかもしれないからだ。その証拠に、半ば本気に作っていたパトリックだけは、その出来栄えに満足して二度とイエスに戻ってくることはなかった。
 今回のソロ合戦プロジェクトは、それぞれの作品から「オレが一番になってやる」という意気込みが伝わってくる内容で、どれもこれも聴くべきところの多い佳作である。皮肉かもしれないが、この作品群は、イエス・サウンドの主導権が誰にあるのかを示す材料にもなった。


「ビギニングス」

 この一連のイエス・ソロ合戦を通じて判明したことが、スティーヴ・ハウが最もイエスっぽい男だったということである。スティーヴとしてはスティーヴなりにイエスとの差別化を計ったようだが、これがどこから聴いてもイエスを彷彿とさせる内容になってしまっている(ジャケットも!)。しかし、それと同時に、他のメンバーの作品と違って、まとまりに欠ける印象を残すことから、イエスの功績は彼一人のものではないこともわかる。アルバムにはアラン・ホワイト、パトリック・モラーツ、ビル・ブラッフォードも参加。スティーヴ自身が一生懸命歌を歌っているところが嬉しいが、余りうまいものではない。作曲の早さでいえば一番だったのだが。


「未知への飛翔」

 いつもジョンの横で独特のファルセットヴォイスで歌っていた「フィッシュ」ことクリス・スクワイアが、今回は全曲作詞・作曲・プロデュース及びリード・ヴォーカルを担当している。
 ソロ合戦は接戦だったが、勝利の女神はクリスに微笑んだようだ。パトリック・モラーツの「アイ」も優れているが、オリジナリティの面と、自ら歌っているという点でも、他の4人の作品よりも頭ひとつ飛び抜けて優れた出来栄えだったと思う。
 ベースだけでぐいぐい引っ張っていく手はさすがロック界三大ベーシストの一人に数えられるだけのことはある。オーケストラ、サックスなど他演奏者の指揮もうまく、これを聴くと、イエスサウンドの大部分はクリスのイニシャチブの元に作られていることが容易に想像がつくだろう。逆に言えば、これがなければクリスはイエスの中でも過小評価されていただろう。彼はこんな傑作を作っていながらもソロには転身せず、イエスの事実上リーダーとして活躍を続けている。
 なお、このアルバムにはメル・コリンズ、パトリック・モラーツ、ビル・ブラッフォードがバック・バンドとして参加している。


「ラムシャックルド」

 ロック・バンドのドラマーというのは、ディープ・パープルにせよピンク・フロイドにせよ、たいてい独り立ちできず、万年陰の男としてバンドに残り続けるものだが、アラン・ホワイトもその例外ではなかった。このソロ・プロジェクトにはかなり苦戦したのではないかと思うが、どうせ作曲は無理だからと、開き直って、歌も作曲もすべて他人任せにしたことで、結果として、のびのびと、遊び心に溢れたアルバムができあがった。アラン・ホワイトというパーソナリティが感じられないところが残念であるが、歌番バラエティよろしく、アフリカン、R&B、ジャズなど、盛り沢山な内容を、しっかりひとつの作品にまとめた手腕はさすが。そこが元セッションマンの彼らしいところ。彼いなくしてイエスの音はまとまらないと言わせるだけのものがここにはある。
 ジョン・アンダーソンが歌を担当した曲もあるが、黒っぽいこのアルバムの中では、妙に場違いな感じがあり、むしろ彼は使わない方が良かったかもしれない。


「 i アイ」

 これは出来栄えがかなり良い。ブラジル系のリズムを取り入れたラテン・フレーバーのジャズ・ロック・アルバム。歌はゲスト任せだが、楽曲はすべてパトリックの作曲で、キーボードを思う存分弾きまくっている。「サウンドチェイサー」を45分間に伸ばしたようなアルバムであるが、そのためオリジナリティに幾分か欠けるが、それでも最初から最後まで突っ走り続ける情熱のエネルギーは相当なもの。他のメンバーが全員アトランティックでアルバムを制作していたのに、彼だけが別レーベルと契約して発表した。これがうまくいけばこれからはソロとしてやっていこうという胸の内の本気度が伝わってくる内容になっている。


「サンヒローのオリアス」
 最後の最後で真打ちジョン・アンダーソンがついに登場。出遅れたのは慎重に様子を見ていたからということか?
 ソロ合戦の中でも、最も異様な変質を遂げたのは、ジョンだろう。イエスのフロントマンゆえ、ソロ・アルバムはイエス風になるかと思いきや、これが全く異質のコンセプト・アルバムだった。シンセサイザー、ハープ、シタール、パーカッションなど、そのリズムとテンポ、音量を平らに圧縮したような感覚は、ある意味ドラッグのような陶酔感を覚える。ジョンの歌声は、恐ろしいほどに神秘的な響きである。彼が後にパートナーを組むヴァンゲリスのアンビエント・ミュージック(環境音楽)に近い感じだ。映画音楽のようでもある。