イギリスでロキシー・ミュージックが登場したとき、世間はなんとモダンでおしゃれなバンドなんだろうと驚いた。音楽だけでなく、服装やステージ・セットなど、ロキシー・ミュージックというバンドの存在そのものがひとつのポップ・アートになっていたのだった。これはかつて美術の教師をしていたブライアン・フェリーのアートワークが、「音楽」として形になったものであった。ファッションその他あらゆる芸術に造詣が深かったフェリーにとって、音楽は芸術を表現するための一手段にしか過ぎなかったが、開けてみると、これが70年代で最もアバンギャルドなバンドとなった。
ロキシーが凄いのは、オリジナル・アルバムに収録されている曲のうち、『Flesh
+ Blood』の中の2曲を除くすべての曲がブライアン・フェリーが作曲した曲だということだ(一部マンザネラ、マッケイと共作)。それだけフェリーはアルバムにおけるトータル・コンセプトを重視していた。ジャケットから何まで自らデザインしていたことは、今にしてみても斬新である。フェリーが当初目指していたのは「ノン・ミュージック」。バンド名に「ミュージック」という単語を入れながらも、音楽を音楽でないものとして解体し、組み立てなおす。メンバーは楽譜を読めないフィル・マンザネラはじめ、感性のミュージシャンたちが揃い、メロディを奏でることよりも、音のフォルムにこだわった演奏を聴かせた。ファースト・アルバムの「Re-Make/Re-Model」でロックをズタズタに解体してみせたその退廃的なサウンドは、他に類をみないごちゃごちゃしたものであったが、それでいてその美的感覚は衝撃的であった。
演奏の前にドアの音や、ライターの音を入れるなど、ちょっとした演出が都会の夜を連想させ、震える声で歌うブライアン・フェリーは「ロック界のダンディ」と称されるようになる。『Siren』でそのダンディズムも一応の完成をみたかに思えたが、そこから4年の停止期間をおいて発表した『Manifesto』で、サウンドがまた大きく進化。楽器を楽器とも感じさせぬほどドラマチックで洗練された美しいサウンド・ミキシングは、新たに多くのファンを獲得し、「Dance
Away」が全英1位のヒットを飛ばす。作品を経るごとに美しさを増してきたロキシーであったが、過去の集大成ともいえる『Avalon』で、ロキシーの耽美主義、ダンディズム、ソフィスティケートのすべての要素が、幻想的な1枚のアルバムに結実した。これ以上素晴らしい作品はあり得ないとまで言われたが、フェリーはこれを最後に、バンドを自然消滅させた。
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