ある日突然聴きたくなるのがローリング・ストーンズ。もう聴き始めると止まらなくて、ストーンズばっかり聴いてしまう。ストーンズのサウンドには、そんな中毒性がある。
63年のデビューから、70年代あたりは、何度も「そろそろ解散するんじゃないか」と言われながらも、ここまでやってきて、今となっては「奴らは死ぬまで絶対解散しないな」と言われるまでのバンドの鑑になった。2007年10月18日の朝日新聞にミック・ジャガーのインタビュー記事が載っていて、「あいつまだ生きてるよ、まだ歩いてるよと思われるのも楽しいじゃないか。芸術の世界は大企業の仕事と違うから、やろうと思う限り続けられる。誰からももう辞めろとは言われない。つまり、自分次第なんだ。だから、創造的な人間はずっと想像し続けられる。大事なことは自分のためにやるということだ」というミックの言葉にすこぶる感動した。僕がまさにストーンズの良いところはここだと思っていたことが、ミック本人の口からこうしてわかりやすく言葉に表してもらえたのだから嬉しかった。この様子じゃ70を過ぎても続けているに違いない。どんなに多くのバンドが現れては消えようと、ストーンズだけは我が道を行き続ける。その意味では、ローリング・ストーンズこそ、真のロックバンドだと思う。
ミック・ジャガー。この人はうまいとかヘタとかとは違う次元の人だとつくづく思う。だってとにかくかっこいいのだから。若いころの声もみずみずしくていいが、年を取ってからは、渋みが増し、段違いにパワーアップしている。僕自身はむしろ60年代のミックよりも、今のミックの歌声に情熱を感じる。
「ブリッジズ・トゥ・バビロン」はストーンズの大傑作ではないか。この気合いの固まりのような作品。まずそのパワフルさ。そして音楽的趣向のバリエーションの数々。それでいて一本の作品としてきちんとまとまっており、1曲目からコンスタントに聴かせる。「メインストリートのならず者」にも劣らぬ完成度。「メインストリート」同様、中毒ガスが充満しまくり、何度でも飽きずに聴いてしまう。
「Anybody Seen My Baby?」が発表当時かなり話題になったことを今でも覚えている。ちょっとえぐいミュージック・クリップでチケット売り場で歌うミック・ジャガーがかっこよすぎて、大人の危険な香りがして、こんなにイカしたロッカーはいないと確信した(クリップにはアンジェリーナ・ジョリーが出演)。60年代70年代のストーンズにはなかった新境地。90年代らしい、ストーンズのアイデンティティを示したドラマティックな名曲だ。
「Saint Of Me」も素晴らしい一曲だと思う。とにかくミックの声にゾクゾクしまくるし、どんどん盛り上がっていく展開はストーンズ真骨頂。ギターとベースとオルガンがただただ心地よく、音楽に身をゆだねてトリップしたくなる。
他の収録曲もシングルカットしてもいいくらい優れている。一曲一曲の盛り上がりの見せ方が絶妙。「Flip
The Switch」の気持ちいいコーラス。「Low Down」のゴージャスな音圧。「Already Over Me」の一句一句をかみしめたように歌う燻し銀のミック。「Gunface」ではpの発音(put,power,pay)でツバがびしばし飛びまくる。「You
Don't Have To Mean It」のトロピカルなライブ感。「Out Of Control」のこの得もしれぬグルーブ感覚。「Might
As Well Get Juiced」のなんたるねちねちした重低音。「Always Suffering」のみずみずしい歌声。「Too
Tight」はこれぞまさにロックそのもの。「Thief In The Night」の異様な陶酔感。「How Can I Stop」はキースやっぱりうまいぜ。
しかしこの後、ストーンズはライブ活動は続けていたが、アルバム制作は長らく休止してしまう。それほど魂を出し切った一枚だったのかもしれない。もちろん8年後の「ア・ビガー・バン」もこれに負けない良作ではあったが。
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