クラフトワークのアルバムはどれも好きだが、特にお気に入りはこの「放射能」だ。あたかもアルバム1枚がひとつながりの音楽ドラマになっているところは、アルバム志向の僕としては嬉しい限りである。曲から曲に移り変わっていく流れがうまく、曲間をまったく意識させない完璧な出来栄えである。ピンク・フロイドの「狂気」ほどではないが、僕にとってはそれに近い感動があった。
これは、不可解な実験音楽の世界である。ところがこれがなぜだか不思議とじーんと感動してしまうのである。「アウトバーン」のようなメロディのつかみやすさがあるわけではなく、「人間解体」のように明らかなテクノ・サウンドというわけでもないのだが、ここから聴かれるシンセサイザーで作り出せる音の数々には、感嘆せずにはいられない。波形を操作して「音」を作ることの神秘を追求したアルバムとでもいおうか。その点ではロック・シーンにおけるアグレッシブな「スイッチト・オン・バッハ」といえるだろう。
「Radioactivity」はキーボードの音が美しい。「Radioland」は麻薬的ともいえる一定のテンポにのせて、次から次へと色々な音が聞こえてくるが、何とも言えない浮遊感があり、ラリってしまうこと間違いなし。「Airways」はテクノ音楽の代表格。テルミンのような音に注目。「The
Voice Of Energy」は声の波形を操るボコーダーがうまく使われたミニマル・ミュージックの傑作。「Antenna」はこれまた麻薬的な一定テンポの上で繰り広げられる電子サウンドの嵐。「Radio
Stars」はひたすら反復で聴かせる実験音楽。すごい。「Transistor」は映画音楽に使ってもいいくらい美しい音色。シンセサイザーに出来ないことはないと再認識。「Ohm
Sweet Ohm」は感動的なメロディが聴き所。僕が小学の頃にハマったテレビゲームみたいな曲調のせいか、郷愁を覚える。聴く者を童心に返す、じーんとくる名曲だ。 |