狂気
The Dark Side Of The Moon
1973
Pink Floyd

 ロック史に燦然と輝く名盤。その販売枚数は世界一だと言われている。

 相当凄いアルバムに違いないと、プログレッシブ・ロックのノウハウを何も知らずに買ってしまうと肩すかしをくらうかもしれない。ロックなのに、演劇的な効果音をふんだんに使っていて、あきらかにメロディで聴かせる部類じゃなく、途中から聴いても子供だましとしか思えないシロモノだ。僕も最初はこの良さがまったくわからなかった。でも今ではこれは僕の選ぶベスト・ワンだ。

 途中からではなく、1曲目から最後まで通して聴くことが大前提。聴けば聴くほどにその奥深い音楽センスに感嘆させられる。「おせっかい」で培った1音1音の音が奏でる無限の感性が、このアルバムで「時間」や「金」など、よりつかみやすい概念にドラマチックに刷り込まれ、作曲面、作詞面、コンセプト、演奏、エンジニア、すべてが渾然一体となって、1枚のアルバムに昇華されている。時代を通してみても、これほど完成度の高い作品は他にあるまい。とくに「Time」の感動は言葉では言い表せないほどだ。組曲編成による緻密な構成力。ギターのスピリチュアルなひと弾きが、ドラムの神秘的な音の響きが、一瞬一瞬のその音楽的出来事が背筋をゾクゾクさせる。ぜひ大音量でじっくりと集中して聴いてもらいたい。

 ピンク・フロイドは「おせっかい」で初めて導入したシンセサイザーを、「On The Run」「Any Colour You Like」「Brain Damage」の3曲でようやくまともに使ってみるが、とはいっても「On The Run」以外の曲は基本的には普通のロックと何等変わらない楽器編成であることに驚かされる。ピンク・フロイドは一般的に「シンセサイザーを使うバンド」という誤った解釈をされることが多く、不本意であるが、実際はピンク・フロイドは驚くほどアナログなバンドで、電子音楽とは無縁の生の音を使ったアイデアが斬新なバンドだった。例えば「Time」の秒針の音はベースの音、心臓の音はドラムの音だということに気づく。そうしたギミックが僕がピンク・フロイドを尊敬してやまない理由でもある。

 僕がアメリカを一人旅していたとき、ロサンゼルスのグリフィス天文台にあるプラネタリウムで「狂気」の全曲がモチーフに使われたレーザー・ショーを見たことがあるのだが、それは最高の興奮体験だった。そういう個人的な思い入れも含めて、これはビートルズの「アビイ・ロード」と共に、僕の最も好きなアルバムである。

バンド・アルバム・インデックス
Animals
Atom Heart Mother
Division Bell, The
Final Cut, The
Meddle
Momentary Lapes Of Reason, A
More
Obscured By Clouds
Piper At The Gates Dawn, The
Saucerful Of Secrets, A
Ummaguma
Wall, The
Wish You Were Here


狂気
驚きの高音質マルチチャンネル
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