クラフトワーク
クラフトワーク

 クラフトワークは、ともすればビートルズやボブ・ディランに匹敵する偉大なるアーチストである。テクノ・ミュージックを作り上げた功績は、他のテクノ系アーチストなど比較にならない。ビートルズやディランがロックをロックたらしめたアーチストとするなら、クラフトワークはテクノをテクノたらしめたアーチストということになる。ロック・シーンで唯一、他のロック・バンドと互角に評価されているテクノ系のアーチストはクラフトワークだけであるし、ドイツを拠点としながら、英米のロック・シーンで高く評価されているのもクラフトワークしかいない。これはレゲエでいうところのボブ・マーリィと同じであるが、テクノ系のアーチストで、クラフトワークだけがここまでも別格扱いされているのにはワケがある。
 テクノという音楽がなかったときから、クラフトワークは電子音楽の可能性を追求していた。同じ頃、他の音楽研究家や科学者たちも同様に電子音楽を模索していたが、ひとつのアーチストとして、パフォーマーとして、電子音楽に着手し、成功を収めたのはクラフトワークだけだった。とはいっても、「アウトバーン」を発表するまでのアルバムは、今聴くと、なにやらシロウト臭い。宅録のインディーズ・バンドじゃないかと思ってしまうほどで、テクノというよりは非音楽的なサイケデリックに近い。ピンク・フロイドの初期作品にも似ているので、恐らく当時はプログレッシブ・ロックの分野に入れられていたに違いない。電子音楽といっても、ドラムを打ち込みにしたくらいで、あとはフルートやヴァイオリンなどの生楽器の風変わりな演奏である。初期の作品の中でも特によくできているのは「KlingKlang」だろう。様々な金属音で始まる無機質的な異様な雰囲気がたまらない。延々と同じフレーズを繰り返すドラムの上に、静かなフルートの音。まだバリバリのピコピコサウンドとはほど遠いが、へんてこな音を作り上げ、組み立てていく様は、すでにテクノ的である。
 ようやくクラフトワークらしくなってくるのは「ラルフ&フローリアン」からだ。ちなみにラルフとフローリアンはクラフトワークの中心人物で、この2人だけはずっと結成当初から現在まで変わっていないメンバーである。2人の名前を配した同作からエレクトロニクスを駆使しまくり、音をクリエートすることの楽しさを存分に堪能させてくれるようになった。まだ二流のイメージは払拭できていないが、イマジネーションを刺激するアルバムになっている。たしかにクラフトワーク以前にもビートルズなど、すでにシンセサイザーの名曲を発表していたアーチストはいたのではあるが、クラフトワークのエレクトロニクスは、他のそれとは明らかに使い方が違っていて、吸い込まれていくような魔力があった。クラフトワークの凄いところは、聴いている間、何もかも忘れて、まるで瞑想しているような気分にさせることである。残念ながら、初期のアルバムは現在廃盤で、入手困難な状態になっている。
 クラフトワークが成功したのは「アウトバーン」からである。タイトル曲の爽快感とひとつひとつの音色の美しさは、エレクトロニクスの可能性を大きく広げることになった。「アウトバーン」から「人間解体」までの4作品は、文句なしの傑作で、テクノ・アルバムの大教典といってよく、どれか買うとするなら、この4枚の中から選べば間違いないだろう。どれも感覚的にはアナログの音である。楽曲だけでいえばテクノの夜明けともいえる「アウトバーン」のタイトル曲が断然オススメだが、「人間解体」はエレクトロニクスの要素たっぷりで、崇拝者が多く、これもマスト・アイテムである。しかしアルバム全体の完成度でいえば「放射能」が最もまとまっている。無機質的でありながらも、どこか温かく、ヨーロッパ的な哀愁をおびたサウンドがクラフトワークの魅力である。この4枚を聴くと、彼らがロック畑で高く評価されているのもよくわかる。
 「人間解体」を発表したころ、続々とテクノ・アーチストがデビューし、ちょうどディスコ・サウンドも全盛を迎え、クラフトワークのサウンドもそれと同じレベルで扱われてしまい、彼らも居場所を失ってしまった。それから発表した「コンピューター・ワールド」はもろにテクノの時代を反映させたデジタル・テイストのアルバムであるが、やや力の衰えを感じさせた。それから寡作になり、クラフトワークはテクノのキングとして、名前だけが一人歩きしていった感がある。しかしそこで軽視されては困る。むしろテクノという時代そのものがつまらないものになっていたのだろう。クラフトワークはテクノが生まれる以前から、すでに多くのエレクトロニクスの傑作を発表していたのだから、今思えばテクノというムーヴメントがクラフトワークの下手な真似だったとも考えられる。すなわちクラフトワークは、自分でそのムーヴメントを興し、そのムーヴメントによって葬られてしまったことになる。しかし、音楽史全体を見渡せば、一アーチストとして、クラフトワークが残した功績は大きく、彼らが別格扱いされているワケはそこにあるのではないかと思う。
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ラルフ・ハッター(key)
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ウォルフガング・フルール(per)
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