キング・クリムゾン
キング・クリムゾン

 キング・クリムゾンは奥が深い。プログレッシブ・ロック・バンドとしてはピンク・フロイドと双璧を成すが、ピンク・フロイドが1音1音の音の感性で聴く者を魅了したのとは対照的に、キング・クリムゾンはアルバム全体に漂う雰囲気やそのリリシズムに魅力があった。エレキ・ギターだけでなく、サックスなどの木管楽器、コルネットなどの金管楽器、バイオリンなどの弦楽器、その他打楽器など、ロックの常識にとらわれないバンド編成による音作りに定評があった。また、キング・クリムゾンは驚くべきライブ・バンドでもあった。ジャズのスタイルをとりいれたインプロヴィゼーション(即興)は、ロック・シーンに多大なる影響を与える。紛れもなくロック界のライブの一形式を確立させたバンドといえるだろう。
 キング・クリムゾンの音楽すべては演奏中表情ひとつ変えない天才ギタリスト、ロバート・フリップのコンセプトを反映させたものであった。すべては彼の独断的ゴーサインから生まれたものである。アルバム一枚一枚でバンド・ラインナップはかなり違いが見られ、何度も総入れ替えがあり、現在までに総勢20名がバンドに関わっている。こうしたラインナップは、毎回アルバム制作のたびにフリップがそのアルバムに必要と思った人材だけを集めて結成した顔ぶれであった。つまりはアルバム制作のたびにバンドを結成しなおすわけで、その点から彼らは異質の集合体だったといえよう。かといって決して「キング・クリムゾン=ロバート・フリップ」というわけではなく、あくまでどのアルバムもメンバーの結束が音楽のかなめになっている。フリップは各自にまったく好きなように演奏させたというのだから、アルバム一枚一枚の印象は十人十色まったくといって違っている。
 音楽評論家たちはキング・クリムゾンの活動期間を5つのタームに分類したが、属に言う「キング・クリムゾン」とは第1期、2期、3期のことを指し、そのタームの内に発表された6枚のアルバムがキング・クリムゾンのコンセプトに合致した正規のアルバムということになる。第1期から第2期に移行する間の過渡期に作った二作品、および第4・5期の作品は、観点上、キング・クリムゾンとは別個に考える必要がある。


 「クリムゾン・キングの宮殿」はキング・クリムゾン衝撃のデビュー作であった。ピート・シンフィールドという「歌詞専門」のメンバーがいることで、作品の芸術性はぐっと高められ、そのアルバムからただよう狂気性、静寂性は、まったく当時の時代にそぐわないアルバムであったが、かつてない音楽体験として、ロック・シーンに大きな衝撃をもたらし、キング・クリムゾンの名をいっきに知らしめる。後にエマーソン・レイク&パーマーを結成するグレッグ・レイクの歌声はここでも素晴らしいが、本作一番の功績者はサックスとフルートとメロトロンを弾いたイアン・マクドナルドであろう。このアルバムがきっかけでメロトロンが一躍有名になったといわれているが、それよりも彼の強烈なサックスのサウンドに酔いしれてもらいたい。狂気を表すのにサックスが使われたのは初めてであったろうし、以後キング・クリムゾンは<サックス・ロック>ともいうべきバンドになった。
 この後、フリップは、ジャズ畑のピアニスト、キース・ティペットを迎え入れた「ポセイドンのめざめ」と、イエスのジョン・アンダーソンをゲストボーカルに迎え入れた「リザード」という2作品を残すが、これらは余興でしかなかったため、現在はキング・クリムゾンのディスク・コンセプトからは除外視されている。


 第2期ではロバート・フリップとサックス担当のメル・コリンズが中心となって活動。すでに第1期のメンバーはフリップを除き一人もいない。キング・クリムゾンといえば第3期ばかりが高く評価されているが、僕個人的には第2期が一番好きである。メル・コリンズのサックスにはただただ驚くしかない。第2期では「アイランド」と「アースバウンド」の2枚だけしか発表しておらず、「アースバウンド」に関してはテレコで録音した音源を発表しただけのお遊び作品でしかないが、2作とも大傑作であることには変わりない。とくに「アースバウンド」は音質こそ汚いが、キング・クリムゾンのインプロヴィゼーションのスタイルを最も的確に表した最重要アルバムだと断言する。「アイランド」は彼らのアルバムでは最も叙情的な作品で、ロック用の楽器とクラシック用の管弦楽器が見事に調和した美しい逸品だ。


 またメンバーが総入れ替えし、最強のラインナップとも言われている第3期メンバーが結集。「太陽と戦慄」と「レッド」はいずれもキング・クリムゾンを語る上では最も重要で、最高傑作との呼び声が高い。「暗黒の世界」も、彼らのインプロヴィゼーションのスタイルがついに来るところまで来たアルバムであった。「太陽と戦慄」の制作時ラインナップにはパーカッション担当のジェイミー・ミューアとバイオリン担当のデヴィッド・クロスがいたが、彼らの音が織りなすその異様な雰囲気は、ジャンルがどうとか流行がどうとかいった、そういうことは一切抜きにして圧倒的なインパクトを持ち、革命的1枚になっている。解散宣言後に発表した「レッド」では、人間の想像の可能性を凌駕し、出せるものすべてを出し尽くして終わる。あまりにもドラマティックな終焉であった。


 キング・クリムゾンは確かに第3期で終わっていた。それから7年の沈黙の後、再びロバート・フリップはプロジェクトを始動させる。メンバーを1から結成し直し、ディシプリンという新バンドをスタートさせるが、これをフリップはキング・クリムゾンという名前を借りて売り出しために事態はややこしくなった。サウンドは明らかにかつてのそれとは別次元のものであり、名前は同じだが、別バンドと思ってよく、世間は彼らのことを<ディシプリン・クリムゾン>と呼んだ。管弦楽器を一切排除し、ギター・ロックに徹した3枚は一連のコンセプト・シリーズになっているが、名前の重荷があるせいか、やたらと過小評価された感がある。かつてのキング・クリムゾンを意識せずに冷静に聴けば、これらも優れたニュー・ロック・サウンドではあったのだが。フリップはこの3枚で自身のコンセプトはすべて形にしたといい、バンドをあっけなく解散させるのだった。活動期間は81年から84年のわずか4年間だった。


 ああどこまで進化するクリムゾン。ディシプリン解散後、10年のブランクを置いて、ついにフリップが動き出した。スティックという特殊なベース楽器を全面的に使用し、ギタリスト2名、ドラム2名、スティック2名というダブル・トリオ編成で「スラック」を発表。新たに<ヌーヴォ・メタル>という概念を打ち立てた。世間はこの新クリムゾンを<ヌーヴォメタル・クリムゾン>と呼んだ。この時期にフリップは数多くのライブ・アルバムを発表。かつての音源を発表した作品や、あらたにインプロした「プロジェクト1〜4」など、野心作を多数発表し、この10年間でかつてないほど精力的に活動を続け、収集できないほどアルバム枚数が増えていった。そしてフリップの提唱した<ヌーヴォ・メタル>は、これまででも最もヘヴィな作品「ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ」の発表により、ようやく完成を見るのだった。
 これからフリップはクリムゾンをどのように進化させていくか、まったく未知数である。フリップはクリムゾンを従来言われているような意味で<プログレッシブ・ロック>だとは認めていないが、それが<進歩するロック>という意味であるのなら、クリムゾンはまさしくその通りのバンドだと言っている。本当に恐るべき音楽生命体である。
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ベストフィルム「Easy Money」(YouTube)
この映像でのメンバー構成は第3期のものである。ロバート・フリップ(ギター)、ジョン・ウェットン(ベース&ボーカル)、ビル・ブラッフォード(ドラム)、デヴィッド・クロス(メロトロン)


ロバート・フリップ(g)
--------#lineup one
ピート・シンフィールド(words)
イアン・マクドナルド(sax)
マイケル・ジャイルス(dr)
グレッグ・レイク(b)
--------#transitional member
ピーター・ジャイルス(b)
アンディ・マックロウ(dr)
ゴードン・ハスケル(b)
--------#lineup two
メル・コリンズ(sax)
ボズ・バレル(b)
イアン・ウォーレス(dr)
--------#lineup three
ジョン・ウェットン(b)
ビル・ブラッフォード(dr)
デヴィッド・クロス(violin)
ジェイミー・ミューア(per)
--------#lineup four
エイドリアン・ブリュー(g)
トニー・レヴィン(b)
--------#lineup five
トレイ・ガン(stick)
パット・マステロード(dr)



In The Court Of The Crimson King (69)
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Lizard (70)
Islands (71)
Lark's Tongues In Aspic (73)
Starless And Bible Black (74)
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Three Of A Perfect Pair (84)
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The Power To Believe (03)

【Live Album】
Earthbound (72)
U.S.A. (75)
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The Great Deceiver (92)
B'Boom (95)
Thrakattak (96)
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Absent Lovers (98)
The Projekcts (98)
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Vrooom Vrooom (01)
Ladies Of The Road (02)

【Mini Album】
Vroom (94)
Shoganai (02)



クリムゾン・キングの宮殿
In The Court Of The Crimson King