危機
Close To The Edge
1972
Yes

 プログレッシヴ・ロック・バンドの中でも、最もマトモといえるのはイエスじゃないか。僕がロックを聴き始めた頃、はっきりいってプログレのことがわからず、ちんぷんかんぷんだった。ピンク・フロイドなんかどこがいいのかさっぱりだった。そんなとき、初めて僕をプログレに目覚めさせたのがイエスである。ピンク・フロイドのように難しいところはなく、キング・クリムゾンのようにキテレツでもない。本当にノリのいいビート・ロックをシンフォニックに構築しなおしたというところが聴きやすく、またクラシック音楽っぽいところがチャイコフスキーから音楽を聴き始めた僕には心地よく感じられた。
 アルバム1枚でたったの3曲という音楽巨編。しかも3曲ともかなりすごいシンフォニック・ロックになっている。ロックというのは言ってみればひとつの長編映画なんだなぁとまじまじと思った最初のアルバムである。とくにリック・ウェイクマンのシンセサイザーには驚いた。曲のクライマックスの壮大なる三次元音楽にはただただ圧倒されるわけで。後々から聞き返してみると、クリス・スクワイアのベースラインもかなり激しいし、これぞロックといわんばかりだ。スティーヴ・ハウのギターもかなりかっこよく、本当にメンバー全員が一丸となっていることがわかる。「Siberian Khatru」など畳みかけるように9分間聴かせてくれる。もうため息。このアルバムを聴くと、決してヴォーカルだけがロックじゃないことを教えてくれる。イエスのお陰で僕はプログレが一番好きになったのだ。
 イエスのアルバムはどれも傑作揃いで、これよりも良くできたアルバムは他にも沢山あるが、シンフォニック・ロックという点ではやはりこれが史上ベストだと思うし、最も有名なプログレ・アルバムのひとつであることは間違いない。こんな長い曲しか入ってないのに、これでも大当たりしてしまうのだから、70年代初頭の音楽シーンというのは実に異色だった。

バンド・アルバム・インデックス
90125
Big Generator
Drama
Fragile
Going For The One
Magnification
Open Your Eyes
Relayer
Tales From Topographic Oceans
Talk
The Ladder
Time And Word
Tormato
Union
Yes
Yes Album, The

イエス・メンバー偉人伝
4.リック・ウェイクマン

リック・ウェイクマン 48年ウエスト・ロンドン生まれ。7歳からピアノを始め、クラシックを習得し、教会ではオルガンを演奏していた。その一方で、スキッフルにも興味を持ち、ブルース・バンドなどを経て、キャンドルド・ミルクというロック・バンドを結成。67年に音楽学校に進学。中退後、セッション・キーボーディストとしてバンドを転々とするが、70年にストローブスに加入。ここでの活躍ぶりがクリスに認められて、イエスのセッションに誘われ、そのままイエスの正式メンバーとなる。
 リックはイエスのメンバーでは唯一きちんとした音楽教育の中で育ったことになる。クラシック音楽の影響をそのまま反映させたような彼のモーグ・シンセサイザーのサウンドは、イエスに新しい色を添えた。大作「危機」におけるリックの壮大なるシンセサイザー・サウンドは、今聴いても驚くべきものがある。
 彼はイエスの上では作曲家ではなかったが(自作曲はソロで発表)、アレンジャー、演奏者としては他に追随を許さないものがあった。キラキラと光るケープをまとい、大きな鍵盤セットに囲まれて演奏する様は、さながら魔術師であるかのようである。リックは、その存在感からしてただならぬカリスマ性があった。メロディメーカー誌で人気キーボーディスト1位の座を取ってからは、30年間、毎年のように、必ずといって各誌の人気投票でリックがキーボーディスト・ナンバー1の座に選ばれる。まさにリックはイエスのスター・プレイヤーだった。
 彼だけがバンドの脱退・加入を何度も繰り返しているが、イエスに在籍していたころからソロとしても自立しており、現在までに出したソロ・アルバム枚数は軽く20枚を超える。
 そんな彼は黄金期メンバーの中で唯一人菜食主義者ではなく、常に人を笑わせるユーモリストだった。イギリスではバラエティ番組などにも出演する有名人なのだという。