スティル・クルージン
Still Cruisin'

1989
The Beach Boys

 ビーチ・ボーイズ、89年の作である。ビーチ・ボーイズは70年代後半以降、そこそこの作品を出してはいたものの、これだといえるような会心作を放っていなかったが、ここにきて、ガツンと一発やってくれた。
 このアルバムは映画『カクテル』のための曲「kokomo」が、66年の「Good Vibrations」以来のチャート第1位となり、メンバーの予想に反して大ヒットしたために、急遽ここぞとばかり、もっと儲けようぜと作られたアルバムで、若干コンピレーションアルバムみたいな様相を呈しているが、これがゴールドディスクを獲得したことはファンにはめでたい話だ。

 既存の映画用サントラ曲などを寄せ集めた本作は、継ぎ接ぎだらけとも言えるかもしれない。しかし、それにしては、キラキラと輝く名曲がそろっている。最後の3曲はボーナストラックみたいなものなので、作品とは分けて考えたい。10曲中7曲がオリジナルアルバムでは初の収録となるため、この7曲を「Still Cruisin'」の作品として考えよう。収録時間は非常に短いが、しかし7曲とも会心ともいえる出来栄えである。マイク・ラブがリードボーカルで、カール・ウィルソンがサイド・ボーカルという「Smiley Smile」以後バンド十八番となったコーラスハーモニーはまさしく絶品。映画『リーサルウェポン』用に作られたタイトル曲や、たくましい音色の「Make It Big」の80年代らしいノリの良さときたら、まったく文句なしだ。

 ノリノリにドライブする「In My Car」は待望のブライアンのペンによる新曲だった。古巣キャピトルでこのアルバムが発売できたのは、この1曲つまりはブライアンの新曲があったかららしい。ネームバリューではブライアンが一番ゆえに、彼の名前が入っていなければ売れないというのだ。

 「kokomo」のすばらしさはいうまでもないが(このミュージックビデオは最低にダサかったけど・・・)、わかって欲しいのは、この曲にはブライアン・ウィルソンは参加していないことだ。「Pet Sounds」以後、マイク・ラブとカール・ウィルソンがバンドにおいてブライアン以上に重要な人物であったことはここに証明されよう。

 ヒップでサーフな「Wipe Out」では新境地を開拓。主役はファット・ボーイズであってビーチ・ボーイズが脇役に回る珍作だが、曲としては見事に成功している。

 アルバムのキラーソングは「Somewhere Near Japan」だ(これはミュージックビデオもかっちょええ)。日本を題材にしたものでは以前「Sumahama」といういわくつきの曲があったが、ここに雪辱を果たした。三味線・和太鼓・銅鑼もどきの音が使われているのは東洋を意識してのものだが、単純にメロディの完成度が高いので、よく音が溶けこんでいる。
 ここで左右に波打つリードギターの音色がなんとも美しい。これはカールの演奏だろうか? カールらしくないタッチだが、非常に前向きでエモーショナルな音色で、ビーチ・ボーイズのリードギターの中でも出色の名演奏だろう。アルのリズムギターも実に心地好い。
 さらにこの曲を感動的なものにしているのは、マイク・ラブ、カール・ウィルソン、アル・ジャーディンのそれぞれが各パートごとにリードボーカルを交代していることだ。3人が、「次は俺」、「ここからは俺」、「最後は俺だ」みたいに、仲良くマイクを譲りあいながら、ゆったりと歌っているような感じで、これはビーチ・ボーイズ・ファンには感慨深いものがある。しかも第6のメンバー、ブルース・ジョンストンの共作ときたものだから感涙必至である。これぞ結束の1曲。

バンド・アルバム・インデックス
15 Big Ones
20/20
All Summer Long
Beach Boys, The
Carl And The Passions-So Tough
Christmas Album
Friends
Holland
Keepin' The Summer Alive
Light Album
Little Deuce Coupe
Love You
M.I.U.Album
Pet Sounds
Shut Down Volume 2
Smiley Smile
Summer Days And Summer Nights!!
Summer In Paradise
Sunflower
Surfer Girl
Surfin' Safari
Surfin' USA
Surf's Up
Today!
Wild Honey