僕はライブアルバムをこよなく愛する男だ。レッド・ツェッペリンもサンタナも、スタジオ盤よりもライブ盤を聴くことの方がはるかに多い。イエスやディープ・パープルのように、5人編成のバンドに関しては、スタジオ盤よりもライブ盤の方がはるかに演奏の質が高く面白い。イエスもディープ・パープルもライブ盤がきっかけで好きになったバンドだ。
ライブの何がいいのかというと、やはりその雰囲気だ。ドライブしながら、カーステでガンガン大音量でライブアルバムを聴くと、もう気分はライブステージの中だ。しかもライブでは例外なくヒット曲のオンパレードときたものだから、すっかり悦に浸れてしまうのだ。
できればアルバム一枚で、トラックごとに音がフェードアウトしないひと続きのライブ盤がいい。1曲1曲が単体で収録されているライブアルバムは、いささか一体感に欠ける。やはりガツンと一曲目から最後の曲まで、会場の雰囲気を一貫して楽しみたい。その方が観客の歓声にも臨場感を帯びてくるというものだ。
ライブではスタジオ盤のように複雑なダビングができない。しかし、そこがライブの醍醐味ともいえる。スタジオ盤ではギターの音が3本同時に聴こえてきても、ライブ盤では1本しか聴こえない。音の数が減ってもその熱気はむしろ高まっている。ギタリストが1人で3本分のギターに匹敵する演奏を聴かせてくれるからだ。これがライブの迫力だ。逆に言えばギタリストが1人しかいないのになぜかギターの音が同時に2本聴こえてきたときには「なんだ。生じゃないのかよ」と一気に白けてしまう。
僕がライブで最もがっかりすることは、口パクや、演奏の真似だ。これはロックスピリッツに反している。どんなに演奏がヘタでも構わない。声がかすれかすれでも大いに結構。とにかく生の姿を見たいわけだから、実際に歌って演奏してくれるのが何よりも嬉しいに決まっているではないか。
これが案外そうもいかないらしい。紅○歌合戦のバックでバイトをしていた管弦楽隊の話だが、ステージに立つ人の中には口パクの人もいるらしい。某大御所バンドのキーボードの電源がOFFのままだったという話をきいたときにはまったくがっかりしたものだ。管弦楽隊自身も、演奏のフリをさせられることもあるらしい。こんなもので観客は本当に満足できるのか。紅○は、ライブのくせしてなぜか字幕で歌詞が表示されたり、きっちり時間通りに進行する番組だから、以前からきな臭いと思っていたが、やっぱり思った通りだったか。これでライブと言い切って良いのか。
厳しく言うが、口パクだと、ファンにすぐにバレる。初めて聴くバンドでも、それがフリであるか、本物であるかは、観客の目にはわかる。口パクだと、微妙にリンクしない感じが伝わってくるものなのだ。
僕の調べでは、口パクは、とくに女性アーチストに多い。体調がすぐれないときはやむを得ず口パクにするようだ。僕の一番好きなケイト・ブッシュでさえ口パクのときはそうだとわかる。ケイトのいろいろなライブ映像を見たが、見分けは簡単だった。口パクだとあまりにも正確すぎて、逆に不自然な感じがする。本当に歌っている時は、声があまり出ていない。最後の方では声がのびずに消えかかって、大丈夫かと心配になってくる。でもそこがかえって、か細い小悪魔みたいで、胸がキュンとなった。そしてますます惚れた。どんなにヘタでも、やはり実際に歌ってくれた方が良いのだ。
僕はヘタクソなライブ音源が大好きだ。ちゃんと歌ってくれてるという実感があるし、ヘタクソでも熱意はあるからだ。ローリング・ストーンズもビーチ・ボーイズもライブ盤では声が全く違っている。スタジオ盤にはない独特のグルーヴ感がそこにある。自分で作曲し、自分で演奏すること。これこそロックの本来の形。だから、ロッカーたちには、思い切り歌って演奏して欲しいと願う。
(2007/11/20) |