ロック・バンドには、ライブ向きのバンドと、スタジオ向きのバンドの2種類があるが、ピンク・フロイドに関してはその両方がいえる。ピンク・フロイドのスタジオ・アルバムは、緻密な計算によって編み出された完璧なサウンドが聴き所だが、ライブにおけるステージ・エフェクトもまたスタジオ盤に劣らぬ存在感を放っている。
「pulse」は、ランプが点滅するギミックのCDパッケージからしてただならぬ逸品。封入ブックレットは光り輝くショーの模様を伝える写真集になっているが、そこに写るステージの壮大なスケール感は曲を聴く前からして圧倒的だ。
演奏曲目にはファンが沸きに沸いた。シド・バレットの Astronomy Domine を未だに聖典としてオマージュをささげた精神。さらに後半では名盤「狂気」の全曲プレイ。どれも前回の「光」のライブを遙かに超えた迫力である。
ピンク・フロイドの音楽の醍醐味はエコーなどの音響的な演出に尽きるが、ライブでは再現がなかなか難しかった。しかし、それさえもこのライブでは完全に再現してしまったのだ。これは彼らがオーバーダビングにほとんど頼らない極上のライブ・バンドであった証といえる。
ピンク・フロイドは「狂気」を土台にして我々を3度も驚かせたことになる。チャートに長年居座り、スタジオ盤の史上最高傑作を打ち立てたかと思うと、今度は「pulse」をもって、ロック史上最高のライブをその歴史に刻んだ。そして、この後、間もなくマルチチャンネルとなって生まれ変わる「狂気(SACD)」で、コンピレーション盤の最高傑作までも打ち立てることになるのだから、ピンク・フロイドは怪物以外の何者でもない。
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