2006年7月22日、富士スピードウェイで開催されたウドー・ミュージック・フェスティバル2006に行ってきました。これは2004年のロック・オデッセイの続編にあたるフェスティバルだが、ロック・オデッセイの反省点も踏まえてか、ロック・オデッセイの3倍は充実した内容のフェスティバルとなった。ロック・オデッセイでは洋楽邦楽五分五分、エアロスミス、矢沢永吉、フー、レッド・ホット・チリ・ペッパー、ブラック・アイド・ピーズ、ポール・ウェラー、ラルク・アン・シエルと、何一つ共通性のないおかしなチョイスで、会場もライブには不向きのスタジアムで、観客の満足度は微妙なものだったが、今回は洋楽好きのオヤジたちにターゲットを絞ったところが良い。客層を限定することで、訪れた観客の満足度は何倍にも跳ね上がる。出演バンドも50組以上と大健闘し、メインステージは、サンタナ、ジェフ・ベック、ドゥービー・ブラザーズ、キッス、ポール・ロジャースなどが招かれた。客層的にはサンタナが好きな人はジェフ・ベックもキッスも当然好きに決まっているので、観客は大喜びである。
山奥の自然型なので、開放的で、座席もない。他の夏フェスをお手本にしたのだろうか、今回はウドーさんも複数ステージで攻めてきたが、これは正解だった。ステージが複数あるため自由に行動が出来る。座席がないことのメリットは、熱気がステージ前方に集中することだ。ジェフ・ベックが演奏しているときには、前方にジェフ・ベック・ファンが密集するし、サンタナが演奏するときにはサンタナのファンが集まってくる。客席はどんどんヒートアップし、演奏している方はそれを見てまた更に熱くなっていく。指定席制では決して味わえない熱いステージが実現するのである。
僕もウドーさんの餌にまんまとかかった男の一人。出演ラインナップを見て即決でチケットを買った。ウドーさん、ほんとすごいことやってくれたよ。出演バンドの数とステージ数ではフジ・ロックやサマーソニックにはまだ及ばないけれども、バンドの質では負けてはいない。今後も期待がかかる。
フェスティバルは7月22日と23日の二日間開催。ステージは全部で4つ。二日とも出演バンドは全然違う。22日はサンタナがトリ、23日はキッスがトリだ。僕はサンタナもキッスも好きだから両方みたいところだが、僕は普通のサラリーマンなので、24日には仕事があるため、体力面を考えて、涙をのんで23日は見ないことにした。実際22日の1日だけでへとへとになったので、23日は休養をとって正解だったと思う。23日も見たとなれば、仕事にも支障が出ただろう。僕自身は22日だけでも大満足だったし、入場料は1日16000円、その他交通費など諸費用をいれると25000円の出費となったが、それでも安いと言わせるほどの良質のライブだったと思っている。
<ライブに行くまでの奮闘日記>
風邪でふらふらなんだけど
僕はこのフェスティバルの一週間前から風邪でダウンしていて、声もがらがらになっていた。この前行った東京ドームのローリング・ストーンズのライブのときも僕は風邪をひいていて、さんざんの状態だったから、二の舞は避けたかった。僕はよく頭が痛くなる体質なので、ライブの途中で頭が痛くならないかとかなり不安になっていた。
車でいざ出発
22日朝4:45起床。準備を調え、5:20に車で出発。僕の家は所沢にある。会場までは120キロ離れている。まずは首都高で東京に行き、東京から東名高速道路で御殿場まで行かなければならない。
土曜日とあって、首都高も東名高速も渋滞で、かなりの時間をロスした。会場についたときには9:40になっていた。もうすでに足腰が痛くなってふらふらだった。まだ始まってもいないのに!
いよいよ開始
ステージは4つあった。僕はメインステージがどこにあるのかわからず、富士スピードウェイのあちこちを20分も歩き続けて、全然違うところに来てしまう。ようやく道を間違ったのだとわかり、同じ道を早歩きで戻ったが、メインステージについたときには10:30になっていた。ちょうど最初のバンドのレット・ミラーの演奏が始まったころである。この時は客席もすいていたので、僕はいきなり前方の席を確保することができた。客層は、30代くらいが多く、女性も4割くらいいたように思える。僕は少しでも目立とうと思ってカウボーイの帽子をかぶっていたのだが、これでは後の客の視界を遮ってしまうので、我ながら失敗だったと思った。
最前列を死守せよ
次のバンドが出たときには僕は最前列を確保した。生まれて初めて最前列で見るライブである。ミュージシャンの顔がはっきりみえたし、演奏している様子もよく見えて、音割れもなく、すこぶる感動した。今まで僕がライブをみて一度も楽しいと思ったことがなかったのは、ミュージシャンの顔が見えなかったからだとわかった。この日僕は7組のバンドの演奏を見たが、どれも満足だった。1組に1万円払ってもいいくらいである。本当に心から感動した。
しかしこれには苦労話もあった。最前列の席を確保するために、その場から絶対に離れず、最後まで立ち続けていなければならなかった。無論、トイレにも行けないし、お腹がすいても我慢しなければならない。すごい試練だった。幸い天気は一日中曇り空だったので、熱中症になることもなく、悩みの頭痛も起きず、水分補給せずとも最後まで見ることができた(これが炎天下だったら100%倒れていただろう)。ドゥービー・ブラザーズがでてきたところからは、疲れなど吹き飛んで本気でライブにのめりこんだものである。ここまでくると風邪をひいていることも、足腰が痛いことも忘れていた。ただし、トイレを我慢していたせいで、最後の方ではお腹がかなり痛くなってしまった。
実はひとつラッキーなことがあって、僕の隣で見ていた人と意気投合して、お友達になった。すごくいい人だった。お陰で交替で一度だけトイレに行くことができた。後からわかったが、仲良くなった人は、プロの人だった。色々と音楽談話で盛り上がったが、さすがプロなので見ているところが違っていて、かなり勉強になった。僕も自分のサイト、もっとがんばらなくちゃいかんなと、パワーをもらった。
帰路へ
ライブが終わったときには足が震えるほどガクガクになっていたが、そのまま休まずその足で車を運転して家まで帰った。帰り道は高速道路を使わずに国道を走って帰った。間に休憩はいれていないが、家についたときには夜中の2時を過ぎていた。つまりこの1日で、8時間運転し、12時間立ち続けたことになる。こんなに体力を使ったのは何年ぶりだろうか。しかしライブに満足していたので、ちっとも疲労感がなかった。僕は幸福感で満たされていた。
人生最良の日
家に帰ってからのことだが、「特典付き入場券」というチケットを買っていたにもかかわらず、何ももらっていないことに気づいた。特典ってなんだったんだ? でもまあいいか。16000円でこれだけの内容なら、十分にもとは取り戻した。よくある「東京ドーム公演」みたいなライブは見るもんじゃないと思った。1バンドのために10000円も払って2時間だけで終わるのはもったいない気がしてきたのだ。それくらいに今回のフェスティバルはお得感のあるイベントだった。早くも次回が待ち遠しくなった。
それにしても、この日見たサンタナのライブは、僕が今までに見たすべてのライブの中でもベストだった。ステージのフィナーレでチャイコフスキーの名曲「1812年」(僕にとってはこの曲はロックです)と花火が共演する一大ページェント・シーンがあったが、あの花火を見ていると、本当に今日一日の幸福感に満たされていくような気がした。大袈裟でなく、この日は人生最良の一日だった。
<僕が見たバンドの感想>
■バディ・ガイ
僕が一番最初に買ったブルースのCDはバディ・ガイのCDだった。そんなわけで思い出深いミュージシャンである。この日、黒人系の音楽はライブではとことん盛り上がることを再確認させてもらった。あのギター、あの声、何度聴いてもしびれます。生だとその感動もでかい。映画「フェスティバル・エクスプレス」ではバディ・ガイがステージから降りて客席の端まで行くシーンがあったけど、今回のライブでもそのパフォーマンスは健在だった。ステージの横の階段のところで、客席をしばらくじらしてからステージをやおら降りる演出がニクイ。目の前にバディ・ガイが通っていったときには僕も我を忘れた。バディ・ガイのせいで客席は前方になだれ込み、前詰めの窮屈な状態となった。
■ヌーノ・ベッテンコート
すごいギタリストだった。バディ・ガイの後だったので、だいぶ興醒めするんじゃないかと思ったが、その逆で、思い切りのりにのらせてもらった。心地よいビート感で、いつしか首を上下に動かして聴き入っている自分がいた。こういうメタリックな感じの音楽も、ライブでは大盛り上がりすることがわかった。客席のどこかから女性がステージに向かって叫んでいたが、ヌーノ・ベッテンコートは愛嬌たっぷりに女性の声を真似して「Yes!」と返事した。とてもお茶目な人だった。
■プリテンダーズ
この日のために僕は予習のためプリテンダーズのCDを買った。プリテンダーズというと、僕はついキンクスを思い出してしまうが、ちょっと見くびってました。パンキッシュなストレートなノリの曲調が気に入った。クリッシー・ハインド、おばちゃんになったけど、でもかっこよかったなあ。彼女の声が楽器の音に比べて小さかったのが気になったけれども、パフォーマンスは見応えがあった。女性ロッカーとしてのパフォーマンスのお手本みたいな人だと思った。お目当てのバンドじゃなかったけれども、ついでで見るバンドにしてはおいしすぎた。
■ドゥービー・ブラザーズ
いやぁ、ほんと楽しかった。個人的には僕は初期ドゥービーの方が好きなので、トム・ジョンストンがいるのは嬉しかった。トムの演奏している姿がとにかくかっこいい。男気があって、エネルギッシュで、熱い奴。見事なおっちゃんぶりだ。メンバーの人数も多く、サウンドも賑やか。いかにもアメリカらしいノリノリのサウンドで、「Long
Train Running」をみんなで大合唱したときは楽しかったなあ。この日のライブでは最高にウキウキするステージだったと思う。いっきにそれまでの疲れが吹き飛んだ。
■ジェフ・ベック
この日の出演者の中では、ジェフ・ベックだけがひまひとつだった。ドゥービーであれだけ熱くなった後に、寡黙でアクションのないジェフ・ベックである。出る順番を間違っていると思った。ジェフ・ベックは僕の大好きなギタリストだが、この手のフェスティバルには不向きだと思った。それに、ベースの音がやたらと大きかったので、スピーカーから飛び出す爆音の波に体全体を叩きつけられ、いささか不快になった。ベースはうるさいのに、曲自体は地味なフュージョンという不釣り合いな演奏である。踊るような曲ではないため、直立不動のまま、じっと演奏に耳を傾けるしかなく、そのせいか立ち疲れた。
■サンタナ
いよいよ真打ち登場。この日の僕の目当てだっただけに、出てきただけで僕は感動した。やはりラテン系の音楽は盛り上がる。代表曲よりも新曲を中心としたセット・リストだったが、まさしくトリにふさわしい最高のパフォーマンスだった。サンタナのときだけバックに巨大スクリーンが設置された。僕はスクリーンに映像が映し出されるタイプのライブが嫌いだが、今回に関しては別だ。演奏者の手などよく撮れていたと思う。カルロス・サンタナ自身もカメラマンに「こうやって撮れ」と指図しているのが見えた。スクリーンに「ウッドストック」の映像が写し出されたときにはもしやと思ったが、やはりそこから「Soul
Sacrifice」の演奏があり、俄然盛り上がった。今回のフェスティバルは「ウッドストックの再来」を目指したものらしいが、このようにウッドストックを意識した演出がファンを泣かせる。ついに客席で興奮して素っ裸になる奴まで現れて、まさにウッドストックを再現する形になった。
嬉しいのは、サンタナのステージの途中で、ゲストとしてジェフ・ベックが登場したこと。もう大サービスである。これは予想してなかったので本当に嬉しかった。なるほどベックがドゥービーの後に出てきた理由はこれか。まさかベックとサンタナが競演するなんて!もう信じられない!キャー!
夢のようだった。これだけでも入場料のもとは取り戻した。もう最高の気分だ。(2006/7/23) |