キンクス
キンクス

 キンクスはリードボーカルのレイとリードギターのデイヴのデイヴィス兄弟を中心としたイギリスのバンドで、ビートルズローリング・ストーンズと並び、ブリティッシュ・インベイジョンを代表する三大ロック・バンドのひとつにあげられる。最初にビートルズが登場し、ヒット作を連発したら、次はストーンズがビートルズに対抗するために危険な男の路線で攻めた。そうなると、残された三番手のキンクスは「変人」になるしかなかった。そんなわけで、キンクスはビートルズやストーンズに比べると、最も奇妙キテレツなバンドに見えたものだ。歌も大してうまいものじゃない。「All Day And All Of The Night」や「Stop Your Sobbing」などヘンテコなサウンドである。しかしそのファズのきいたギター・サウンドは<キンキー・サウンド>と命名され、今となるとそれはヘヴィ・メタルあるいはパンク、オルタナティブの原石だったといっても過言ではない。彼らの初のヒット曲「You Really Got Me」は現在もロックのスタンダードのベスト・テンにランク・インされるほどの屈指のナンバーで、おそらく世界で最初のヘヴィ・メタルといえるものだ。
 キンクスは、そのバリバリとうるさいギター・サウンドもさること<リフ>も天才的だった。次々と新曲を量産するレイ・デイヴィスはギタリスト野郎にはリフの天才とまで言われた。「You Really Got Me」のリフはロック史上最も有名なリフといわれている。シンプルにしてイカス。ロックにとってリフがいかに重要かを証明する名曲だ。初期作品はこのようにもっぱらシンプルでパワフルでかつヘンテコな楽曲が多かった。
 ところがキンクスは早くもスタイルを変えた。評判だったキンキー・サウンドをあっさりと捨て、アコースティック・ギターの牧歌的なサウンドを取り入れたトータル・アルバムを発表するようになる。それが『ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ』だった。テレビコマーシャル的な「Picture Book」の軽快なリズムとつかみやすいサウンド、「Animal Farm」のじわじわとこみ上げて来る感動など見事なものである。レイ・デイヴィスの歌詞もより深みを増し、歌唱法もユーモラスになり(おそらくレイは世界最初のラッパーだ)、批評家からも絶賛された。トータル・アルバムという概念を考えたのはビートルズで、他にフーが有名であるが、その後の活動ぶりをみると、最もトータル・アルバムの世界に精通していたバンドはキンクスだった。レイ・デイヴィスには鋭い先見の明があったのだ(というか好き勝手にやっていただけだが)。それ以後も英国らしさ溢れる「Victoria」「Australia」「Shangri-La」をフィーチャーした『アーサー、もしくは大英帝国の衰退ならびに滅亡』や、グラム・ロックの走りともいえる「Lola」が話題になった『ローラ対パワーマン、マネーゴーランド組第1回戦』というレイ・デイヴィスらしい長いタイトルのシニカルなトータル・アルバムの名盤を立て続けに発表、中でも『ローラ対パワーマン』はリフをきかせたキンキー・サウンドとトータル性が融合した色とりどりのサウンドで、彼らの入門作に最適である。彼らが<最も英国らしいロック・バンド>といわれるのは、トータル・アルバムのその優れた内容と、曲から漂う英国の下町の雰囲気ゆえだ。
 それから活動の拠点をアメリカに移すが、どれも不発に終わった。ところが『マスウェル・ヒルビリーズ』『この世はすべてショー・ビジネス』など、ちゃんと聴いてみると内容はどれも優れたものばかり。キンクスほど才能とは裏腹に一般受けしないバンドはいないだろう。日本でもキンクスを知っている人はかなりの音楽通に限られる。一時期キンクスはアルバムを作っているのか?と疑うほどに影の薄い時期もあった。それでも地道に活動を続けていたのは、レイ・デイヴィスの性格ゆえ。彼は世間一般の評価はほとんど気にしていなかったのかもしれない。常に自分の思うままに、自分の世界を築き上げていた。ヴァン・ヘイレンとジャムとプリテンダーズがこぞってキンクスの曲をカバーした影響もあって、『ロウ・バジェット』から再びキンキー・サウンドが復活してようやく活気を取り戻すが、基本的にはレイの自己満足の世界にも思えた。
 僕が時としてビートルズやストーンズ以上にキンクスに愛着を覚えるのは、キンクスが自分に近いものをもっているからかもしれない。どんなにアルバムが売れなくとも、常にマイペースで自分のやりたい世界を築き上げるそのレイ・デイヴィスの生き様にはしびれるものがある。その意味ではジェスロ・タルのイアン・アンダーソンにも通じるものがあるだろう。
 なお、レイとデイブの不仲は有名で、ツアーでも別の飛行機に乗ったというし、ホテルも別々にしたと言われている。現在は活動を停止し、ソロに専念しているが、しかしながら64年にデビューしてから、94年まで一度も解散することなく、ほぼ1年に1枚ペースで新作を発表しているし、メンバー交替も数えられる程度である。不仲なのに、よく解散しないでここまで来られたものだ。93年の作『フォビア』を聴くと、そのリフといい、キンクスの健在ぶりに圧倒される。キンクスは万年不遇だが、わかる人たちにはその価値がわかる希有のヘンテコ・バンドである。
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レイ・デイヴィス(g)
デイヴ・デイヴィス(g)
ミック・エイヴォリー(dr)
ジョン・ドールトン(b)
ジョン・ゴスリン(key)



The Kinks (64)
Kinda Kinks (65)
The Kink Kontroversy (66)
Face To Face (66)
Something Else By The Kinks (67)
The Village Green Preservation Society (68)
Arthur Or The Decline And Fall Of The British Empire (69)
Part 1. Lola Versus Powerman And The Moneygoround (70)
Percy (71)
Muswell Hillbillies (71)
Everybodys In Showbiz (72)
Preservation Act 1 (73)
Preservation Act 2 (74)
Soap Opera (75)
Schoolboys In Disgrace (75)
Sleepwalker (77)
Misfits (78)
Low Budget (79)
Give The People What They Want (81)
State Of Confusion (83)
World On Mouse (84)
Think Visual (86)
UK Jive (89)
Phobia (93)

【Live Album】
The Kinks Live At Kelvin Hall (67)
One For The Road (80)
Live The Road (87)
To The Bone (94)

 


マスウェル・ヒルビリーズ
Muswell Hillbillies